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2013年7月22日 (月)

ヴェルディ歌劇の面白さ(4)

ヴェルディの歌劇には、「決して妥協しない」人物が登場します。前半期の作品に登場する人物にも、そのようなキャラクターがときどき垣間見られるのですが、特に後半期の作品では、三人の人物が顕著です。

その三人とは、「シチリアの晩鐘」中のジャン‐プロシダ(ジョヴァンニ‐ダ‐プローチダ、バス)、「運命の力」中のドン‐カルロ(バリトン)、そして「ドン‐カルロス」中の大審問官(バス)です。この三人はそれぞれのドラマの中で、策を弄して主人公やヒーロー・ヒロインを陥れる敵役ではありません。むしろ確信犯的に「これが正義だ」と信じ込み、右顧左眄せず、目的に向かって一直線に突き進みます。その行動ゆえに、巻き込まれた人たちにさまざまな悲劇が襲いかかります。

ジャン‐プロシダはシチリアの医師で、目的は「祖国の独立」です。そのためにはフランスの占領軍の殲滅が至上命題です。フランス総督モンフォールを暗殺しようとして失敗し、その際にかつて同志だったアンリ(アッリーゴ)の素性が判明すると、彼を「フランス人」として敵視し、さらに彼と独立派の象徴である公女エレーヌ(エレーナ)との結婚式まで民衆蜂起に利用して、ついには鐘を打ち鳴らす音を合図にモンフォールの殺害、フランス軍打倒を達成するという、徹底した祖国愛の持ち主です。現代の過激派・テロリストに通じるものがあります。

ドン‐カルロはセビーリャの貴族で、その目的は「父の復讐と家の名誉の回復」。妹のレオノーラと恋人のドン‐アルヴァーロの二人が密通して、父のカラトラーヴァ侯爵を殺害したと誤認し、北イタリアの陣営で偶然出会ったアルヴァーロの釈明にも全く耳を貸しません。その後、ついには修道院までアルヴァーロを追い詰め、彼と決闘して逆に瀕死の重傷を負わされながら、岩屋で隠遁生活を送っていたレオノーラを見つけ、彼女を刺してから自分も死にます。ドン‐カルロには、南米先住民の血統のアルヴァーロに対する明確な差別感情があり、それが復讐心に拍車をかけています。

大審問官は90歳の視覚障害者として登場し、その目的は「カトリック共同体の死守」です。国王フィリップ2世が側近のロドリーゴに惑わされて異端(プロテスタント)の思想に理解を示していると断じ、その態度がスペインの国家体制を揺るがしていると非難、王子ドン‐カルロスとロドリーゴが処刑に値すると考え、妥協を認めません。エボリ公女が蜂起させた民衆に対しても、高圧的に国王への忠誠を要求し、恐れた民衆たちを黙らせます。最終幕でも国王とともにカルロスと王妃エリザベートを処断しようとしますが、先王カルロス5世に扮した修道士に阻止されます。宗教国家の権力の象徴として描かれています。

この三人は、まさに仮借なき強い意思の人であり、ドラマを引っ張っています。演じる歌手には、他を圧倒する声量が求められるでしょう。残念ながらこの三作品はいまだ劇場で鑑賞する機会がありませんが、ヴェルディのオペラではヒーロー(おもにテノール)やヒロイン(おもにソプラノ)だけでなく、存在感の大きな低音の脇役にも注目したいものです。

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