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2013年7月 6日 (土)

誰かを叩かなければ気が済まない人たち

フィギュアスケートの元世界女王(2回)・安藤美姫選手が4月に女の子を出産したとのこと。親族など周囲との意見の違いを乗り切って、子どもの命を守った選択には、心から祝福し、拍手を送りたいと思います。

 

ところが、この素晴らしい生き方に水を差すどころか、批判、さらに誹謗中傷する人たちが、少なからず存在することは現実です。

 

まず、穏当なところでは、「五輪を目指すのであれば、妊娠・出産そのものに慎重であるべきだった」というもの。これはまっとうな意見のように見えますが、実はおかしい。そもそも、安藤選手は元・世界女王とは言え、現在は日本スケート連盟の強化選手ではありません。強化選手が五輪を目指すための費用を支給されているのに、自分の身体能力に影響を及ぼす選択をしてしまい、それを隠していたというのであれば、批判の対象になり得ますが、強化選手でない以上、安藤選手には国民に対する何の責任もないはず。これほどの実績を持つスケーターですから、五輪を目指す以上、あらゆる阻害要因を回避してほしかったという人たちの思いはともかく、批判するのは筋違いでしょう。

 

次に、「アイスショーで稼げるビッグなスケーターなのに、ファンに出産を隠していたのは道義的に問題ではないか」とする考え方。ファンの心理が理解できないわけではありませんが、あくまでも妊娠・出産はショーやメディアへの露出を休止している間のできごとですから、別に安藤選手がファンを裏切ったものではありません。事実をいつ開示するかどうかは本人の判断でしょうし、子どもを産んだからもう安藤選手のファンをやめるという人がいたら、その人はもともと真のファンではなかったということです。

 

そして問題なのは、この話題についてスキャンダラスな報じ方をする一部のメディアと、それに煽られて誹謗中傷を行う一部のネットユーザーなど、モラルに欠ける人たちでしょう。安藤選手が静かに見守ってほしいと希望しているのに、子どもの父親の素性をほじくり出そうとしたり、女性アスリートが未婚の母となったことをおとしめたりする連中。

 

この人たちの心の中は、どれほど荒涼とした風景なのでしょうか? ほんの二年余り前、大震災の直後、開催会場までホーム(日本)からアウェイ(ロシア)に変えられてしまった世界選手権で、かつての五輪女王を破って世界女王に返り咲き、傷ついた祖国の人々の自信を取り戻してくれたヒロインに対する、敬意のかけらも見られませんね。さらに、子どもの人権をどう考えているのか?

 

安藤選手をおとしめるメディアや誹謗中傷する人たちの多くは、「誰かを叩かなければ気が済まない人たち」ではないでしょうか? つまり「あいつが悪い!」{「あいつが変だ!」と叫ぶことで、閉塞感から解放されたい人たちです。しかし、このような知的体力に欠ける思考の近くには、大きな罠が隠れています。先般、「生保騒動」でも触れましたが、国民感情を扇動して政策への支持を固めようとする人たちの画策です。誰か「悪い人(たち)」を作っておいて、「こういう人(たち)を出さないために、政策をこちらへ向けましょうね」というアピールです。

 

祝福されるべき安藤選手の出産への卑劣なバッシングが、一部地域の保守的な政治家や教育者が推進している時代錯誤的な「子どものため、常に親が家に居るべき」という動きを促進させ、働きながら子育てをする女性たちの肩身が狭くなる事態を招くことがないように願っています。もはや少子高齢化対策は待ったなしの段階なのですから。

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