口のきき方で介護を変える!(2)
(前回より続く)
その方は80代、歩行困難で寝たきり状態の女性でした。入浴目的で短時間の通所介護を利用していましたが、たいへん頭の低い方で、介護する職員に対していつも「お世話になっています」と丁寧語で話しかけていました。他方、介護する側の職員はほとんど、この方に対してタメ口をきいていて、丁寧語で話していたのは私だけでした。
家庭介護が難しくなり、この方が施設入所することになって、私がお役御免のあいさつに出向いたときに、「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな、というのは、あなたのことですね。○○大学卒の人なのに、本当に丁寧な言葉でお話ししてくれました」と言われました。短期記憶もあいまいだった人なのに、どこで聞いたのか、私の学歴まで知って記憶していたのです。
利用者の認知症が進んでいるから「どうせすぐ忘れるんだろう」などと思って、相手を軽んじた言葉遣いをしている介護従事者は、大いに反省すべきでしょう。認知症が進んだ利用者も、介護する職員が自分を人間として尊重しているのかを、しっかり観察しています。私たちは、利用者の理解力・判断力がいかに低下していても、その目を恐れなければなりません。常に私たちは顧客から評価されているのです。その評価の大きな指標の一つが、「口のきき方」ということになるでしょう。
しかし、すでに述べているように、私たちの介護業界、さらに広く保健・医療・福祉業界では、一部の事業者を除き、業界全体として「口のきき方」の研修教育ができているとは言い難いのが実情です。これでは一般市民から、「介護の人たちは、どうせあのレベルだから・・・」と見なされてしまうのがオチでしょう。「だったら、報酬だって安くても良いよね?」。
今回の私の新刊書も、このような実態に対する危機感から、世に出すことになりました。
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