ヴェルディ歌劇の面白さ(6)
20日(木)、上野の東京文化会館で二期会公演、ヴェルディの『ドン・カルロ』を鑑賞してきました。
指揮はガブリエーレ‐フェッロ(敬称略、以下同)、演出はデイヴィッド‐マクヴィカー。キャストはフィリッポ2世がジョン‐ハオ、ドン‐カルロが山本耕平、ロドリーゴが上江隼人、王妃エリザベッタが安藤赴美子、エボリ公女が清水華澄、宗教裁判所長が加藤宏隆、テバルドが青木エマ、修道士が倉本晋児、レルマ伯爵が木下紀章、天からの声がチョン‐ヨンオク。
ヴェルディの全26作品の中で、最も壮大であり、かつ深刻な悲劇と言われています。当時の「世界の半分(スペイン・ポルトガルとその全領土)」の君主であったフィリッポ2世(=フェリーペ2世)と、王子ドン・カルロ(=カルロス)との相克を題材にしたドラマであり、これにカルロと同年の王妃エリザベッタ(=エリザベート)が絡む構図。本来カルロの婚約者だったエリザベッタが、父王の王妃になってしまう(これはフィクションですが)ことが発端となり、大貴族ロドリーゴと女官長エボリを含めた5人の登場人物の、愛と憎悪、友情と敵意とが複雑に交錯します。そこにカトリックとプロテスタントとの対立が表面化し、「仮借のない」宗教裁判所長が介入することで、第四幕あたりからドラマは極度の緊張に達します。
もともとこのオペラは「ドン‐カルロス」としてフランス語の台本に作曲されましたが、ヴェルディ自身が何度も改訂を加えたことにより、現在もいくつかの版が残っています。イタリア語に訳されて「ドン・カルロ」となり、これも四幕版と五幕版とがありますが、20日の公演は五幕版のほうでした。
キャストは全四公演を二公演ずつ分担するダブルキャストで、20日は若手中心のいわばBキャストでしたが、総じて「聴かせる」上演でした。中でも清水のエボリが出色の出来で、第二幕「ヴェールの歌」、第四幕のアリア「むごい運命よ」は、いずれも聴衆からブラヴォーの嵐。安藤のエリザベッタも劇的な役を見事にこなし、第五幕のアリア「世のむなしさを知るあなた」は圧巻。女声二人の活躍で全体が華やかに彩られました。ハオ・山本・上江の男声陣も好演。加藤と倉本はやや声量不足との指摘を免れず、要所を締める二人のバスに、もう少し迫力があればさらに良かったのですが・・・。
フェッロの指揮は聴かせどころでテンポをやや緩め、じっくり腰を落としてオケを響かせるスタイル。マクヴィカーの演出は限られた予算(?)の中で同じセットを終始通して活用しながら、台の上げ下げで場面を表現するという秀逸なもの。オペラ初心者にもわかりやすい設定でしたが、台本にはない、フィリッポ2世とエリザベッタとの間に生まれた娘(乳児)が登場する場面、台本では修道士に連れ去られるカルロが、騎士たちに斬殺されてしまう(史実では幽死)場面などは、甘いロマンに浸ることを許さない現実の冷徹さを表現したものとして、特徴的だったと感じました。
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