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2014年6月 9日 (月)

混合診療解禁に反対する理由(2)

前回から続く)

「混合診療」の解禁に反対する理由は、まだまだ挙げることができる。

【反対理由3→先端医療の多くが公的保険対象外の部分に含まれるようになり、低所得者は時代遅れの医療しか受けられなくなる】

良いサービスを利用したい人は、自分のお金でそれを購入する。これは市場原理の基本であり、それ自体が間違っているわけではない。

しかし、ここで「先読み」が求められる。

保険外診療から保険診療に移行する部分が拡大すれば、むしろ国民にとって利益になるというのが、混合診療を推進する人たちの意見である。しかしそれは大きな間違いだ。少なくとも、財源論から社会保障の制約を打ち出しているような現在の日本にとっては、絵に描いた餅である。

それでは、現実にはどうなるだろうか? 現在は良く効く薬の多くが保険適用になっている。医師の指示さえあれば、多くの市民がそこそこの自己負担で薬を処方してもらうことができる。混合診療が解禁されると、それがどのように変化するだろうか?

製薬会社や医療機器会社は競って政策サイドに働きかけ、新薬や新しい先端医療機器を保険外診療分の側に分類してもらって、自社の「言い値」で売ったほうが、明らかに利益につながる。残念ながら日本の官僚機構は、財源がないと主張しながら、ムラの利権を維持することには熱心なので、(有力な天下り先でもある)製薬会社や医療機器会社の意向を踏まえた形での許認可行政を展開する可能性が強い。すなわち、先端医療に係る多くのコンテンツの承認を、ヒマラヤの雪が全部融けるまで(?)、先送りするわけだ。

そのため、日進月歩する医療の中で、旧来の薬や医療機器だけが公的な保険適用になり、新薬や新しい医療機器は売り手側の会社と官僚機構との操作により、どんどん高値がつけられ、低所得者には手が届かないものになってしまう。すなわち、資力を持つ富裕層だけが先端医療に係る医療技術の恩恵を受けられ、低所得者は効果が薄い時代遅れ医療しか受けられない事態を招く。

これは、国民皆保険制度がもたらしたレベルの健康生活を、根底から覆すものだと言わざるを得ない。

【反対理由4→保険外診療の安全性が十分に担保されない】

これは、日本医師会が混合診療解禁に反対するおもな理由でもある。

海外の企業はもちろん、国内の製薬会社や民間企業経営の医療システムであっても、これらが参入することにより、医療業界が過当競争に突入すれば、当然起こり得る問題であろう。また、EBMに分類されない統合医療をどう位置付け、どう評価していくかという課題も残されたままだ。混合診療の全面解禁が起点となり、安全度の低い保険外診療が医療業界の基盤を揺るがすことになれば、国民による医療への信頼が根本から覆る危険もなしとはしない。

ちなみに、日本医師会によるロビー活動には、当然、医師という職能の特権的な利益を守る動機付けによるものが多いことは、私も否定しない。というより、むしろすべての職能団体、業界団体が、そのような性格を帯びていることは自明の理である。

大切なことは、その活動が多くの国民の福祉をもたらすものであるか、という点である。日本医師会の主張が結果的に医師の権益を守ることになっても、同時に国民の多くが受益者になるのであれば、大いに結構なことではないか。「いちばん得をするのは医師だ」という考え方は、活動に反対する理由にそぐわない。

保険外診療の安全性への疑義提示は、職能や専門性の垣根を越えて協調していかなければならない活動であろう。

【反対理由5→介護についても、医療と不可分な部分が少なくないため、これに連動して同様の仕組みが促進される恐れがある】

介護は医療と異なり、介護保険制度は存在しても、基本的には「混合介護」である。すなわち、保険給付で受けられる介護は要介護度によって種別、内容、限度額が決められているが、はみ出した部分や保険給付に該当しない部分について自費で介護サービスを購入しても、保険給付が認められなくなるわけではない。

しかしながら、介護保険で給付される部分の範囲が縮小されれば、上述した混合診療と同様な問題が広がることは、大いに懸念される。

たとえば2009年4月の要介護認定の一部項目判定解釈の改悪(その後修正)は、要介護度を低く認定させるという政策サイドの露骨な意図が歴然としており、まさに混合診療解禁と同じ方向を示すものであり、「混合介護」のうち公的部分の縮小効果を狙ったものと言わざるを得ない。

すでに外資系の大手損保会社が、M&Aにより介護保険部門を拡充する動きを強めており、国内の損保会社も同様な商品の開発を進めている。このまま経過すれば、反対理由2に掲げた民間保険の行動様式が、介護部門に波及する可能性がある。

そして、ここまで述べてきたすべてを包括して、混合診療の解禁の根本的な問題は何なのか、と言えば・・・、

【反対理由6→人の命の重さに格差が生じる】

これに尽きるであろう。

最後に・・・

混合診療が全面解禁になれば、自分や家族の病気を治療する資力がある富裕な方へ。また、民間保険の拡大によって利益を得たい事業体・組織の関係者の方へ。

一つだけお願いしたい。

あなたも人間の心を持っているのならば、アマーティア‐セン氏(経済学者)のこの言葉の意味を考えてみてください。

★「他人への共感こそが、自分を幸福にする」

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