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2014年8月12日 (火)

ヘイトスピーチとゼノフォビア

先の7月24日、日本において、複数の団体がおもに在日韓国・朝鮮人に対して行っている、いわゆる「ヘイトスピーチ」に関して、国連の規約人権委員会は日本政府に対し、禁止勧告を出した。

国連の事務総長がどこの国の人か、などの問題は別として、この勧告は当然のことだ。日本におけるヘイトスピーチを主導する団体の行動は、暴力的、脅迫的な様相を呈し、常軌を逸していることは、以前のエントリー「『きりすて教』の信者に告ぐ」にも掲載した通りである。

これらの行動を、「反日」に対するカウンターだと弁護する人もいるようだが、前掲エントリーで人権侵害に遭った中学生の少女は、日本同様に中国から武力を背景とした領海侵犯行為を受けている親日国フィリピン人夫婦の子なのだから、筋が通らない弁護だと言えよう。

もちろん、ヘイトスピーチに対するカウンター側の暴力、脅迫的行為も常軌を逸している。一部のカウンター団体は、単に竹島奪還(という日本国民なら当然の主張)をした人たちに対し、暴力的、脅迫的行為を繰り返しているからだ。こちらも処罰されて当然である。特に、前政権に連なる有識者たちが、このような暴力的行為を、たとえ消極的であれ、反ヘイトだからとの理由で支持しているのは、言語道断である。日本社会はいつから、意見が対立する相手を暴力で排除する社会になってしまったのか?

また、国連の勧告は、「日本人出て行け」などの反日運動を処罰しない国々に対しても、公平になされるべきであろう。緊張関係が高まっている相手側の国に住み、現地の産業に貢献している日本人が肩身の狭い思いをしないためにも、現政権の今後の外交努力に期待しよう。

ところで、ヘイトスピーチについて、少し理解を深めてみたい。

前掲エントリーに記述したような団体の行動は、「ゼノフォビア(xenophobia)」の思想に発するものである。ゼノフォビアとは、生物学的に異種の存在を嫌悪する性癖を意味する。これは高度に同質性の高い民族構成を持つ社会に、比較的現れやすい。長く島国であった日本は、そういう傾向が強い。

したがって、上記とは逆に、東アジア系の外国人は「民族的に近いので」排除しないが、南米系の外国人は排除するという傾向を持つ人たちもある。以前、浜松の中心部でブラジル人による日本人殺害事件が起こったあと、残念ながら住民の一部がこのような考え方になり、MAF Hamamatsu(浜松外国人医療援助会)の活動に部分的な支障をきたしたことがあった。

ヨーロッパ、西アジア、アフリカのように、民族の血統が何世代にわたって入り交じり、国籍こそ存在しても「〇〇人」という民族意識自体が希薄になっている地域であっても、同質性の高い社会の中には、ゼノフォビアが起こり得る。逆に多様性の高い社会であっても、同質性の高い特定の民族がゼノフォビアの標的にされることもあり得る。このような土壌から、ヘイトスピーチが組織的に行われるという忌むべき現象が起こる。

他方、ゼノフォビアとの関係が薄いヘイトスピーチが存在する。一つは日本と政治的、経済的利害関係が対立した国の国民に対するものである。中国人や韓国・朝鮮人に対するヘイトスピーチを唱える人たちの動機は、ここから発している場合も少なくない。こういうヘイトスピーチには、東南アジアや南米の人たちに対する敵対意識は希薄である。また逆に、血統的には全くの日本人であっても、国籍が相手方の国にあれば、「出て行け」となる。冷静に判断できる個人や団体ならば、国と国との関係を、個別の人同士の関係に持ち込む愚はしない(戦争状態やそれに近い状態なら、話は別だが)。まことに残念なことだ。

もう一つは、個人や家族の歴史に由来するものだ。A国の人間に家族を殺された、B国の会社に財産を奪われた、C国人のグループにネットで誹謗中傷を受け、著しい名誉の失墜に至った、など。これらは一人ひとりの心の問題であるし、中にはその国の名前を聞いたり、国旗を見たりしただけで、吐き気をもよおす人さえあると思われる。私も本論の中で、そこに立ち入るつもりはないし、公的な活動にならない個人の意見であれば、それはその人の考え方として受容することになろう。

このように、ヘイトスピーチと一言で言っても、簡単に片付けられないものがある。上に述べたことは、ほんの一側面にすぎない。機会があれば、さらに深くこの問題に斬り込んでみたい。

最後に・・・状況はともかく、憎悪の応酬は不毛である。私たちは国籍や民族を超え、人間と人間とがいかに共存するかを、真剣に考える時期に差し掛かっているのだ。

カトリック教会の平和旬間に寄せて。

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