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2014年8月10日 (日)

国際関係における「動機」と「理由」

「次世代の党」なる新党の最高顧問になった石原慎太郎氏が、ある雑誌のインタビューで、あなたの野望は何ですか? と聞かれ、「シナ(中国)と戦争して勝つ」と答えたと報じられた。

これに過敏反応した複数のメディアや「護憲派」の人たちが、中国との間に緊張関係が高まったのは、都知事時代に尖閣諸島を購入しようとした石原氏に責任があるかのように唱えている。「マスゴミ」や「プロ市民」が、この発言を聞いて鬼の首でも取ったかのように喜んで論っているのは笑止千万だが、真摯に平和運動をしている人たちまでが、誤認しているとしたら、たいへん残念なことだ。

まずは、下の地図を見ていただきたい。1982年以降、鄧小平政権時代に中国の「地図出版社」が刊行した『中国歴史地図集』全8巻の、すべてに掲載されている「中華人民共和国全図」の一部分だ。

20140704chizu

画像ではわかりにくいかも知れないが、中国の「領土」は薄赤色で塗りつぶされている。「釣魚島」と「赤尾嶼」(すなわち尖閣諸島)はそう扱われている。そして、台湾と先島諸島との間には、一応国境線と思われる太い線が引いてある。

ところが、なぜか薄赤色で塗られていない(はずの)沖縄県の島々や、鹿児島県の奄美群島が、赤色の枠で囲われている。これは日本だけではなく、スプラトリー群島やその周辺の島々など、ヴェトナムやフィリピンのように昔中国に朝貢していた国(地域)が領有している島々に共通する記載である。さすがに、古代中国王朝の領土であった土地であっても、ヴェトナム北部のような独立国の本土部分には、このような記載はされていない。もし囲ってあったら、当時からたいへんな国際問題になっていただろう。

しかし、どう考えても、これを見れば中国の指導部の意図は明々白々だ。奄美群島までは中国にとって旧朝貢国であり、領有権を主張できるということである。それは曲解だと主張する日本人がいたら、よほどおめでたい人物としか思われない。

中国の指導部にとっては明らかに、「尖閣諸島は自明の自国領」であり、「奄美群島までが領有権未定の係争地」なのである。これは鄧小平から江沢民政権、胡錦涛政権、そして習近平政権と替わっても、一貫しているはずだ。その間、中国が明確な表現により自国側の主張を後退させたことは、一度もないのである。

すなわち、都知事時代の石原氏の行動は、中国との緊張関係をもたらした単なる「動機」に過ぎない。中国が領海侵犯を繰り返す真の「理由」は、「もともと自国領だから」以外にはあり得ない。石原氏の行動があろうが無かろうが、どこかの時点で早晩、中国共産党はこの侵犯行為を断行したであろう。

メディアがこの32年前の中国側の認識に関して、全くと言ってよいほど報じていないことは、日本の国防にとって大問題なのだ。そもそも上記地図を見たこともないコメンテイターも多いのではないか? 多額の謝金を受け取っているのだから、自分自身の勉強不足を恥じるべきであろう。いわんや「マスゴミ」や「プロ市民」が意図的にこういう情報を人々の目に触れさせないようにしてきたのであれば、言語道断だ。

私たちはこのような事実(現実)を踏まえないと、たいへんな判断の過ちを犯すことになる。すなわち、著しい軍拡を続けている中国が、尖閣を「係争地」でなく「自明の自国領」だと考えているということは、石原氏がどうあろうが安倍内閣がどうあろうが、いつか必ず尖閣諸島を取り戻しに攻撃を仕掛けてくることになるからだ。米国が世界各地で軍事作戦を展開し、東アジアに割く戦力が減少したあたりが狙い目ということになる。

いま、私たちのカトリック教会でも平和旬間(8/6~/15)に入っている。長崎の被爆者団体の代表が、集団的自衛権の容認について、戦争に参加する可能性がある暴挙だと非難する気持ちは理解できる。もちろん私自身、死ぬまで平穏な生活が続いてほしいと願っていることは言うまでもない。

しかし、中国は第二次世界大戦以降、武力(と、それを背景にした圧力)で領土を広げている唯一の国である(ソ連時代に領有していたクリミアをウクライナから奪ったロシアについては、ひとまず措く)。ヴェトナム、フィリピン、ブータンなどで起こっていることは、対岸の火事ではない(ブータンについても、関心のある人は調べていただきたい)。

このような国が領海を接している以上、民主主義の価値観を共有する国々と共同で防衛を展開する体制を整え、戦争を抑止することが、結果的に戦争に加わらないことにつながるものと、私は考える。石原氏は中国と戦って勝てると思っているようだが、私は(一国対一国の対戦なら)諸状況から考えて、勝つのは難しいと判断している。ならば米国をはじめ、同盟関係にある国々との関係を深めるしかないのだから。

賛否両論あろうとは思うが、どのような意見を展開するにしても、誤った(偏った)報道を鵜呑みにしてモノを言ってほしくはない。心ある市民の皆さんには、正しい情報に基づいて自説を展開していただきたいと願っている。

(あくまでも国と国との国際関係について論じたものであり、日本に滞在する善意の中国国民を誹謗中傷する意図が無いことを、お断りしておく)

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