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2014年12月21日 (日)

作る人、使う人

三年ほど前に、オリンパス‐メディカルシステムズ社の投資・買収をめぐる一大不祥事が明るみに出たとき、「しかし・・・たぶん、ツブれることはないだろうな」と思った。その理由は、同社の内視鏡が多くの医師にとって、手技的になじんで使いやすいものになっている以上、いまさら違和感を覚える他社の器械に変更する医療機関は少ないだろうと考えたからだ。

もちろん、一連の騒動に関しては風化させずに、同社に猛省してもらわなければならないが、同社が医師たちにとって「使いやすい」道具を長年にわたり開発してきた積み重ねは、評価されてしかるべきであろう。

器械(機械)=マシーンだけでなく、ロボットも同じである。いま、介護の省力化の主要アイテムとして、さまざまな機会に介護ロボットの活用が取り沙汰されているが、作る人と使う人とをマッチングさせる品物でなければ、社会にとって無用である。

望ましいマッチングのために必要なのは、お互いを理解すること、これに尽きる。

介護保険制度が始まる3年ほど前、まだ宮仕えだったころ、(旧)浜松市の在宅介護支援センター職員の集まりの場で、次年度の研修企画を考える協議が持たれた。以前から、福祉・介護職員にもテクノロジーの知識が必要だと考えていた私は、CADを皮切りに福祉・介護機器に関する工学的な学習を提案したのだが、取りまとめ役(仕切り役)であった二人から一蹴されてしまった。「知らないより知っておいたほうが良いって程度のものでしょ?」と・・・。

その後は介護保険に突入、介護とテクノロジーとの間に横たわる課題を顧みる暇も十分になかったのが現実だ。

今年になり、とある業界仲間とのつながりから、株式会社abaの代表取締役・宇井吉美さんと知り合う機会を得たので、12月9日、宇井さんの開発拠点がある千葉工科大学の津田沼キャンパスでお話を聞かせていただいた。宇井さんは同大学のOG(まだ卒業後何年も経っていないお若い方である)であり、今回は無理をお願いして、宇井さんの師である富山健教授からも、短い時間ながらご高見を伺うことができた。

宇井さんが介護に関心を持たれたのは、ご自身のご親族が介護を要する状態になられたことによる。そして、千葉工大で富山健教授という良き師を持つことができたことが、飛躍のきっかけになった。当初、「癒しのためのロボット」を作りたかった宇井さんに、富山教授が貴重な助言をくださった。

「人を癒すことができるのは人だ。ロボットではない」

富山研究室のメンバーの方々がめざす介護ロボットは、あくまでも「介護者支援ロボット」である。「開発する人は、基本的にロボットを作りたいので、作ることが楽しくなってしまい、それが現場にとってどんな意味を持つのかあまり深く考えない。1+1が2以上になって役立つものでなければならない(富山教授)」。

これを実践するために、富山教授はご自分の教え子である学生さんたちに、必ず現場で実習をさせる方針を採っておられる。

宇井さんも学生時代に介護現場へ実習に行ったところ、介護職員が利用者の排泄介助を自分側のペースに合わせて行っているのを目の当たりにして、衝撃を受けたという。現場のために何をしたらいいのかわからないまま、ロボット作りの仕事をすることは許されない、と認識を新たにされたとのこと。

そこで宇井さんは、利用者の身体のペースに合わせて、おむつを開かずに排泄を察知して介助を行うことができる方法はないものか、研究を開始し、大学三年生のとき、排泄検知機器の開発に成功される。紆余曲折を経ながらも、ビジネスコンテストに出品して受賞を重ね、四年生のとき株式会社abaを立ち上げ、前後して諸先輩から貴重な助言を受けることもできた。

一年半ほど前から、宇井さんは東京都文京区で飯塚裕久さんが経営する「ユアハウス弥生」でボランティアを始め(その後、初任者研修も受講され、現在は介護職員)、せっかく開発した排泄検知機器が、現場職員を誰一人納得させられないことに気付き、介護職員の動き方に合わせた改良が必要なことを痛感された。

このように、技術畑の論から現場との協働へと、望ましい方向にどんどん進んだ成果が、排泄検知機器「Lifilm」である。「におい」で検知し、記録してデータ集積までしてくれる優れものだ。介護職員が排泄を予知できることも多く、利用者一人ひとりに合わせた随時誘導も容易になる。

Lifilm

このLifilmの広がりは、現在、船橋市内にとどまっているが、来年は千葉県全体、さらに東京都へも販路を広げていく見込みである。

宇井さんが今後開発したいものは、一人の利用者のバイタルデータをすべて記録できるポータブル機器や、会話内容を即時文章化して相関関係を整理していく機器だとのお話があった。特に後者は、多忙な介護職員のプチ‐ケアカンファレンスに活用できたら良いなあ、と考えておられるとのこと。

「作る人」と「使う人」との連携は、今後の介護業界の大きな課題であろう。

「技術屋と介護職員とは言語が通じない。特に、介護職員はなかなか施設内の課題、問題点を赤裸々に語る場がないために、技術屋に向かって話すとき、ついつい話に熱が入り、さらに愚痴がそこに混ざって、結果的に偏った見方のインタビューになってしまうことがしばしばあります。ところが技術屋のほうは、その介護職員の話をスタンダードな介護職員の考えとして捉えてしまうから、ミスマッチが起きる。一緒に働かないと見えてこないものもあるのですから、互いに気の置けないところまで入り込んで場を共有する必要があるのではないでしょうか(宇井さん)」。

日本の介護を右肩上がりにしていくためには、私たち介護業界で働く人間の側に、大きな意識改革が求められているのかも知れない。

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