ファンドレイジング‐コストとは?
あくまでも個人的な好き嫌いであるが、日本テレビの「24時間テレビ」は嫌いだ。理由は、障害や難病など、社会的な困難を有する人たちにスポットを当てながらも、結果的には「感動の押し売り」になっている面が強いと感じるからだ。
また、日本ユニセフ協会(狭義のユニセフ機関の一部ではないが、ユニセフと協定を結んだ国内委員会であり、広義のユニセフ関連機関である)や、その大使(同じく国内委員会の大使)になっている芸能人・随筆家の女性A氏(香港出身)も嫌いだ。理由は、政治的利害を超越しているはずのユニセフの名を冠しながら、同協会やA氏がチベット人やウイグル人の迫害されている子どもたちに対して、事実上の無視を決め込んでいる姿勢が、私の人権感覚と著しく乖離しているからだ。
つまり、私が日テレの24時間TVや日本ユニセフ協会・A大使を嫌うのは、単純にこれらの組織が自分の思想・行動方針と異なる方向を向いていることによるものである。
ところが、別の理由でこの両者を嫌っている、それどころか批判している人たちがいる。組織そのものの運営に問題があるという理由だ。
一言で表現すれば「お金」の問題である。
「24時間TVは、出演するタレントたちに高額のギャラを払っている」「日本ユニセフ協会は、A氏など活動に従事するメンバーに多額の活動報酬を払っている」といった類の批判だ。
まず、結論から言えば、「チャリティーは無償であるべき」との通念のほうが、国際標準から乖離していると言うことができる。
「ファンドレイジング‐コスト(fund-raising cost)」なる言葉をご存知だろうか?
寄付金などの資金を集めるために必要な経費のことである。どのような組織やイベントでも、募金活動に携わる人は、そのために時間と労力をかける。特に看板になる人は、その知名度や地位や技術が高いほど、それを得るまでの「原資」もかかっている。これに見合う対価もファンドレイジング‐コストに含まれる。
ここに経費をしっかりかけることは、スタッフの無償奉仕に依存する体質から誘発される、ブラック労働状態を防ぐためにも、大切なことなのだ。また、一部の富裕な活動家の資産からの「持ち出し」を抑制することは、活動の組織的な基盤を固めることにもつながる。
もちろん、経費をかけても良いからと言って、90万円のコストをかけて100万円の寄付を集めても良いわけではない。国連が設定したファンドレイジング‐コストの目安では、寄付金の25%程度が上限とされている。100万円の寄付を集めるのなら、コストは25万円程度で収めるべきということだ。
国連の規定は一つの国際基準であるので、もし向き合う社会問題がとても深刻であり、その解決のためには多くの人たちが協力してより多くの資金を調達しなければならず、結果的に経費が過大になってしまったとしても、客観的に許容される範囲であれば、25%を超えた状態が継続する場合も起こり得る。
さて、この基準に照らした場合、日テレの24時間TVも、日本ユニセフ協会(こちらは本部のユニセフが国連機関なので当然だが)も、ファンドレイジング‐コストは、25%の範囲内にとどまっている。前者であれば有名人のギャラ、後者であれば大使や職員の活動費を引き合いに出して、イカサマとかインチキとかいう人たちがいるが、少なくともファンドレイジング‐コストの割合だけから見れば、これは不当な批判である。
ただし、募金活動のファンドレイジング‐コストは公開され、寄付協力者への説明責任がしっかり果たされるべき社会的責任がある。私自身は上の二つの募金は「個人的に嫌い」なため協力していないので、収支報告を見ることもないが、もし寄付協力者が収支報告を閲覧して不審に思う点があれば、質問を送るか、より適切な形での開示を求めれば良い。
しかるべき段取りによる裏付けも取らずに、「募金活動でもうけている人がいる」との誹謗中傷が広がれば、その人たちの社会貢献の功績の部分を軽視し、人間性を貶めるような誤った評価が定着しかねない。先日、上に記した日本ユニセフ協会のA氏に対する殺害予告事件が発生し、犯人である15歳の少年は、予告文で「児童ポルノを認めよ」と言っていたものの、警察から取り調べを受けると「慈善事業をしているのに裕福な生活をしているのが許せない」と供述したという。
これがどこまで本音なのかわからない。しかし、大人がネットで繰り返している心無い行為が、少年の心までゆがめてしまうことは、他の犯罪例などからも窺える。偏った価値観をネットで垂れ流すことは、将来の日本を担う世代にも悪影響を与えるのだ。
ファンドレイジング‐コストの概念を日本の一般市民の間に浸透させることは、今後のチャリティやNPO・NGOの活動を促進するためにも、たいへん重要である。経費をかけても、お金が一般の市民から活動組織を経由して、社会的不利を抱える市民へと流れる仕組みを確立させていくことは、日本国内の格差解消にも必ずや役に立つものと信じている。
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