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2015年9月12日 (土)

二分割思考の落とし穴

このたびの大雨により、当地・浜松では、一部地区に冠水があったものの、被害は少なかった。他方、茨城県をはじめ、北関東や南東北のいくつもの地域が、河川の堤防の決壊、冠水などにより、甚大な被害を受けた。水害被災地の方々には、心からお見舞いを申し上げたい。

さて、このようなときに決まって登場するのが、メディアやネットを媒介にした、「犯人は〇〇だ!」型の論説である。特に事案発生直後は、飛び交う情報も玉石混淆であるから、なおさらこの類の論説が大手を振ってまかり通ることになりやすい。

今回の水害について言えば、おもに前政権に連なる人たちが非難の対象とされている。具体的には、防災に関する公共事業を仕分けした人たち、自衛隊(救助に当たる人たち)にかける費用を削減した人たち、太陽光発電を推進した人たちや、それらの政策に乗って実際に作業をした人たち、たとえば堤防を削ってソーラーパネルを設置した事業者などが標的として叩かれている(逆に、現政権側で非難されている人たちもいるが、概して少数である)。その中で、個人名や事業者名まで槍玉に上がっている。

特に、いま安全保障法案に関して現政権が反対派側(前政権側を含む)からの強い批判にさらされているだけに、このたびの水害は、政権を支持する人たちが反撃して前政権側の「愚策」を批判する格好の材料になっている。

もちろん、上に挙げた人たちの多くには、それぞれ責任の一端はあるだろう。政権を取った驕り、政権に連なる驕りから、長期的な展望を欠いた施策や事業を一方的に推進した人たちもいることは確かである。良かれと思って推進したことが裏目に出て、拙策となってしまった面もあるかも知れない。

しかし、特定の政党や事業者を「犯人」として叩く考え方は、「情報を操作したい」人たちの罠に陥りやすいのだ。

これは日本人に特有な思考体系であり、「二分割思考」と呼ばれている。白と黒、善と悪、正と邪、純と不純などが代表的なものである。

「悪玉」を叩くことで、「善玉」を支持する市民は快哉を叫ぶ。しかし次に起こるのは、「悪玉」を排除する運動である。たとえば、政策の思惑と関係なく、科学的な論証に基づいて真面目に(住民に迷惑を掛けずに)太陽光発電を推進したい事業者が、地域で不当な権利侵害を受ける。あるいは、客観的な根拠に基づいて、自衛隊の本当に不要な設備の削減を主張した論者が、ネットで攻撃されて炎上する。

また、「悪玉」=「真犯人」ではないことが多い。今回の水害も、巨視的に見れば地球温暖化の大きな影響の一つとして、日本上空に線状降水帯が発生したことによるものである。この気候変化を作り出したのは、長期的に温室効果ガスを排出してきた、日本を含む先進国の国民すべてである。一定以上の年齢の人であれば、あなたも、私も犯人の一人ということになる。

この気候変化が不可逆的なものであれば、犯人探しよりも、より被害を少なくする減災対策が急がれるものであり、悪玉を叩いている暇があったら、国民全員で効果的な対策を議論していくほうがよほど建設的だ。もちろん、まさしく既往の愚策や拙策があれば、これを望ましい方向へ転換させていかなければならないのは当然であろう。悪玉叩きがくだらないと言っても、批判された人たちが現実を無視して開き直っても(誤ったことを続けても)構わないと言っているのではない。

私が強調したいのは、市民の思考が誤った認識に基づいて進展してしまうと、事案の根本的な解決から遠ざかってしまうということだ。「二分割思考」にはそのような落とし穴があることを、多くの人たちに理解してもらいたいのである。

この「二分割思考」についても、近刊の自著(第7章)で述べておいた。世に出るまで、いましばらくお待ちいただきたい。

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コメント

粟倉先生、こんばんは(^_^)

物事の良し悪しを端的に捉えてしまう
ことを、二分割思考というのですね。

確かに、事故や問題の発生には、
そこに至る経緯があるわけで、
安易な結論付けは、かえって改善の
機会を奪うことになるかもしれません。

善玉悪玉の二分割思考で、
問題の本質を見誤らないよう
気を付けたいと思います^_^;

中山さん、
私たちは本当に気を付けないと、往々にして偏った情報に基づいた行動を取ってしまいます。
視界を360度に広げて見渡し、異なった立場から述べられた意見を比較対照して考える習慣を持ちたいものです。
それが自分を大切にして、また周囲の人たちを尊重することにもなりますから。

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