30年の思い(3)
(前回より続く)
そのような問題意識から、より広い地域で現状の変革に何かの形で寄与したいと考えてはいたのだが、もちろん一介のケアマネジャーが簡単にできる話ではなく、当県における介護支援専門員法定研修などの指導の中で、受講者に改善を促していく段階にとどまっていた。
全国レベルで独立・中立型ケアマネジャーの地位確立を目指して集中的に活動したことによって、自分自身が心身ともに疲れ切ってしまい、しばらくは「田舎に引っ込んでいた」ことも確かである。このころ、時代はどんどん移ろい、これまでネットで論壇を張っていた人たちのあとを承継していくような、業界のニューリーダーが次々と登場していたのだが、その人たちの動向もほとんど知らずにいた。ネットを駆使して他県の業界仲間と交流することも、あまりできない状況であった。
5年近く前に、同居している母が顔面神経麻痺を発症し、その通院介助のため大幅な時間と労力とを割かれてしまったことも、大きく影響している。中高年の独身男性が介護離職したり、情報弱者になっていったりすることが社会問題になっているが、まさに私自身が一時的ながらそれを実感する状況になってしまった(その後、母の状態は軽快し、完治とは言えないものの一応治癒したことで、私の負担はとりあえず解消された)。
そのような私に転機をもたらしたのが、厚有出版から著作の提案をいただいたことだ。これはもともと経済的に苦しい事業所の維持を目的として、50歳になってから「ケアマネジャー・介護・福祉職員のための作文教室」なる冊子、いわゆる「国語の本」を書き始めたことに発する。藤枝市で仕事をしている知人の社会福祉士の方が、「こんな冊子が出ている」と同社社長に話してくださり、注目した社長が私に提案してくださったという経過だ。
介護従事者の資質向上のために、「書く力」をテーマにした本を出してほしい、さらにこの流れで別のテーマを取り上げ、三冊目までは行けるのではないか、との同社長の希望に、私は半信半疑ながら応じることにした。せっかくこの業界でがんばってきた証として、「自分の本を世に出せる」ことへの喜びもあり、現状を少しでも打開する絶好の機会だと思ったこともある。企画出版で本を出すことができるのは、特段の著名な活動をしているか、もしくは元稿が存在するか、このどちらかにほとんど限られるのだが、自分は自費出版の冊子を出したことで、図らずも後者に該当していたわけである。
前の冊子はPRに際して北海道在住の業界著名ブロガー(特養施設長)の方のご協力をいただいたこともあり、いささか粗雑な部分があってもかなりの売れ行きを見せたが、今回は厚有出版の名前で著書を出すこともあり、整然とした構成が求められる。自分でも原稿を書き直し書き直し、四苦八苦しながら仕上げたが、厳しくも楽しい作業ではあった。
こうして、2012年9月に発刊されたのが、『介護職の文章作成術』である。
その次をどうするのか? 出版社との協議でテーマは「話し言葉」と決まり、自分自身が体験した現場の実例をもとに、登場する人たちの家族構成や性別を変えて架空事例を何十と作成してみた。介護従事者のための、それぞれのTPOに即したコミュニケーションの取り方を題材にして、カテゴリー分けをしながら構成してみた。
その結果、2013年8月に第二作『口のきき方で介護を変える! 支援に活かす会話55』を書き上げることができた。
この前後から、年に数回であるが、各地からセミナーの講義の依頼もいただき、細々とではあるが、自分の活動も再び「全国区」の体をなした形となる。
(次回へ続く)
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