人と会い、人と語り・・・(2)
前回の(1)の続きで、秋から冬にかけてお会いした方々をご紹介したい。
行動に制約があるとは言え、浜松に来訪される方を待っているばかりでは、効果的なアクションが何もできないことは、百も承知だ。母の体調などを慎重に測りながら、私のほうが遠出することも、ときどきは必要である。
9月30日、もともと買い物がおもな目的で上京する予定だったが、事情によりスケジュールの一部が変更になった。しかし、東京へ出て行く機会も乏しいので、空いている時間には新たな予定を入れることにした。
まずは浜松町にて、(株)介護コネクションの代表・奥平幹也さんとご一緒に昼食。
奥平さんは沖縄のご出身で、大学卒業後は不動産コンサルティングに長く携わってこられた。介護系ファンドとのお仕事の中で、介護事業所の人手不足の問題を見聞され、またご自身が学生時代に働きながら学んだご経験から、経済的に厳しい学生を支援したいとの思いを持たれた。これらの地域課題を資源同士のマッチングにより、解決に導くシステムができないものか考えた末に、4年近く前にご自身で会社を設立。ライフワークとして、介護や介護業界を支える有償・無償の外部サービスや社会資源を紹介したり、つなげたりする「介護本舗」と名付けた企画を推進されている。
特に注目されるのは、事業化を目指して取組んでおられる「介護インターンシップ型自立支援プログラム・ミライ塾」であろう。学生が介護現場で授業時間に配慮されたシフトに沿って仕事をしながら、在学中に返済できる奨学金の貸付システムである。奨学金を返済してしまえば社会に出てどの業種に就職しても良いのだが、多くの若者がそこで介護現場を経験することにより、一知半解の素人ではなくなるから、将来の社会的なリスクを減らすことが可能になる。
介護業界の人手不足解消への対策を、「介護」の枠組みから超越した形で進めようとする取り組みは、私が提唱する「部分的介護就労」の考え方にも合致する。「コロンブスの卵」ではないが、私を含めた多くの関係者が「とにかく業界に人が欲しい」という固定観念に捉われてしまっていたのに対して、奥平さんの思考はスケールが違う。おそらく、社会を変えるのはこのような方だと思う。
そのあと、世田谷区の有料老人ホーム「アライブ世田谷下馬」へ移動して、「音楽の花束」の主宰者である後藤京子さんたちのミニコンサートを聴いた。後藤さんは一応私の「ラー友(?)」のお一人だが、奥平さんなど在京の活動家とのご親交が深い。
このコンサートはピアノと語りが後藤さん、オカリナが江波太郎さん、オーボエが今井知美さんと、一流どころのプロ三人による音楽会である。入居者の方はもちろん、地元の方も(中にはお子さんを連れて)十数人が鑑賞に来られていた。一時間たっぷり、楽器の解説も交えながらのステキな演奏を楽しませていただき、後藤さんのリードで入居者や地元の方々と一緒に歌う場面もあった。浜松ではこんな機会は稀少なだけに、心を洗われるような珠玉の時間であった。
終了後、私と同じく鑑賞していた井上貴裕先生(がん医療に長く携わってこられ、東京で在宅診療に取り組んでおられる医師)と一緒に、お三方にお願いして記念写真を撮らせていただいた。向かって左から今井さん、江波さん、井上先生、粟倉、後藤さんである。撮影してくださったのは、施設の運営会社役員をされている三重野さん。
後藤さんの音楽プロデューサーとしての活動は、子どもたちの授業のサポートから、高齢者施設への訪問、さらに本格的なコンサートまで、たいへん幅広い。特に介護分野では、音楽の力を駆使して、認知症の人たちの集中力を引き出し、周辺症状や心身の機能を改善してもらうことを試みておられ、成果が上がっている。多くの人たちに音楽の素晴らしさを伝えるため、精力的に取り組んでいらっしゃる後藤さん。私も(実は昔、音楽に携わる仕事を目指したかった時期もあったので・・・)心から声援を送りたい。
10・11月と、しばらくは(1)で書いた通り、浜松市・静岡県内での対客が続いたが、年末に入り、思い切って岡山まで出かけてみた。目的は観光33%、人との交流33%、学び33%。残りの1%はナイショである。
12月17日、午後の早い時刻に岡山到着。明るい時間帯に、備前市の伊部まで出かけて、陶芸美術館で備前焼のエッセンスを概観。近くの史跡にも行こうと思ったが、風が強くなり冷えてきたので断念し、伊部駅舎二階の伝統産業会館で、湯呑を一つ買って帰った。
夜はアローチャート(以下、AC)の自主勉強会である「チーム☆岡山」に参加。いつもFBで仲間と友愛のキャッチボールをしてくださる代表の田中雪路さんにお会いするのが、一番の楽しみであった。
この日の参加者は10人であったが、ACの創始者である山口県の吉島豊録先生が来場され、私にとっては旧知の渡邊孝志さんが提出された事例に基づいて、描かれたACを再検討することとなった。遠く大分県から梅野純子さん、熊本県から真鍋幸子さんも参加されている。
吉島先生はSAPAC(Sharing Assessment Process by AC)のセオリーに沿って指導してくださった。以下はあくまでも私の理解であるが、当日のお話の中には、参加者が利用者・家族の生活史を共有するために、補助的なツールとして年表を書くことや、利用者や家族の揺らぐ思いをありのままに描き出して関係を割り出すことや、認知症や精神疾患に着目するよりも主観を軸にACをまとめること、そしてこれらの作業によって、利用者や家族の真実に近づける(→望ましい支援ができる)ことなどが、盛り込まれていたと思う。
学びのあとは、チーム☆岡山のメンバー戸松俊介さんのご案内の店で食事会。
画像の向かって右手前が吉島先生、以下奥へ、真鍋さん、嘉崎直子さん、永久泰三さん、梅野さん、その左が渡邊さん、以下手前へ、粟倉、高畑瞳さん、田中さん、真ん中下が戸松さんである。特に渡邊さんが古代の国史に関する該博な見識をお持ちでいらっしゃることや、梅野さんが他人の長所を巧みに褒めておられたことには、大いに啓発された。
チーム☆岡山の平均年齢は矢万図浜松より少し若いぐらいだが、全員がFBでの交流に参加しているところは大きな違いだ。浜松が「陸の孤島」にならないように、矢万図の連中に警告しなければならないだろう。地域を超えて学びと交流とを深められるのは、ACグループの得難い魅力なのだから。
翌18日は倉敷まで足を延ばし、午前中は美観地区をぶらりと周遊した。昔、修学旅行で来て以来だと記憶している。母へのお土産には「きび団子」を買った程度だが。
お昼には今回のおもな目的地の一つである、倉敷駅近くの「NPO法人・介護ん」の事務所へお邪魔して、理事長の井上きよみさんにお会いしている。同団体の会員・森山さん(下の画像を撮影してくださった)を交え、三人でお話しする機会を持った。
中小企業診断士でいらっしゃる井上さんは、ご自身で会社を立ち上げて活躍されてきたが、いざお身内の方の介護が必要になった際に、地域資源の質量の問題のために、しばしば当惑やご不便、ご負担を感じられたとのこと。そのようなご経験から、利用者・介護者に役立つ情報収集に寄与したいと、「介護ん」を設立して活動されている。また(株)ハートバードの代表取締役もされており、介護・福祉施設等の外部評価にも参画されている。
浜松でも、問題を抱える介護施設・事業所の話はしばしば見聞きするが、岡山県でも同様であり、特に地域によってはバラツキが大きいとのこと。井上さんたちも活動されていく中で、このような状況への対応に苦慮されている現実。ケアマネジャーの質に関しては、かなり厳しい苦言もいただいた。
行政側の不作為も目立ち、さらに市民活動団体さえも民主的な運営とは言い難いところもあるようで、当事者主権の実現には程遠い状況が窺われた。政策側が社会保障を後退させていることも拍車を掛けており、事業者側が必要な投資をして真に望まれる介護サービスを提供できるのか、危ぶまれる環境になりつつあることは肯定せざるを得ない。
ただし、制約が多いからと言って壁にぶち当たっているだけでは、望ましい介護を追求する人たち(利用する側も、提供する側も)にとって、形勢は不利になるばかりである。井上さんたちのように地域でがんばっておられる方々同士の間で、より広がりを持った効果的なネットワークをどう築いていくかが今後の課題であろう。先に登場された奥平さんたちのような活動とのマッチングも、一つの契機になるかも知れない。
もちろん、私自身も微力ながら、自分の力でできることはお手伝いをさせていただきたいと考えている。
今年はここに登場してくださった方々を含め、本当に多くの方々にお世話になりました。来たる2016年こそ、多くの人たちが力を合わせて日本の介護を変えていくことを願っています。
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