裸の女王様?
介護業界には、肩書が重々しく、壇上に立つと、たいへんすばらしい講義をしてくれる人がいる。そして、そういったエラい人の著書は多くの人たちに購入され、読まれている。私の著書より、はるかに読者は多い(笑)。
ところが、そのような人物が経営・運営する施設・事業所が、理想的なところだとは限らない。
都道府県名は伏せておくが、最近、介護業界の仲間から聞いた話である。その仲間を仮にAさんとしておこう。
Aさんは業界の大物Bさん(女性)の名前に魅かれて、Bさんが経営する介護事業所に入職したのだが、いざ中に入ってみると、Bさんが説く理想と大幅に離れていた。
事業所の中で職員同士のコミュニケーションが十分に取れていないのだ。そのため、利用者に対するケアにもバラツキが目立ち、有機的な連携ができないまま、サービス提供体制全体にほころびが生じてしまっていた。Bさんがいわばカリスマであるところから、職員の間からもBさんに提言して事態を改善しようとする機運が起こらず、Aさんが提案しても、Bさん自身が改善に取り組もうとしない。結局、Aさんはそこに長く居られず、退職する羽目になった。
自事業所の現況に気が付いていれば、それを改善すべく努めるのが経営者であるBさんの役割である。もちろん、人間や組織の努力には限界もあるから、どうしても課題を達成できない部分は、未達成であることを外へ向かって素直に認めれば良いだけの話だ(私の知人である優れた現場発講師の方には、自事業所の課題をしっかり把握している方が少なくない)。しかしこのBさんに関して見聞きする限り、そのような形跡は認められないようだ。
現実から推測する限り、Bさんは自事業所の品質低下が見えていない、「裸の女王様」になってしまっているのではないだろうか?
残念だが、このような事業所は介護業界に結構存在するようである。代表者のエラい先生は理想を追い求め、自分の考え方を普及させようと各地へ講演に駆け回っている。ところが自事業所の「留守を守る」肝心の現場職員にはその趣旨が浸透しておらず、利用者に劣悪なサービスしか提供できない状況がしばしば起こってしまう。
どの業界でも起こり得る現象かも知れないが、とりわけ逆風にさらされて「みんな苦しい中を踏みとどまって、がんばっている」介護業界において、Bさんのような人たちの罪は大きい。心ある市民や介護関係者から、「あんたたち、きれいごと言うけど、中身は何だよ!」と思われてしまえば、業界全体の信用低下につながり、利用者に望まれる介護を丁寧に提供している真面目な経営者・運営者まで、不信の目で見られてしまうからだ。
また、「女王様(男性経営者・運営者の場合は「裸の王様」だが・・・)」にとっても、このように課題を放置しておくことは、大きな損失につながりかねない。サービス提供体制のほころびによって何か事故でも起こり、杜撰な経営・運営の実態が明るみに出たら、損害賠償などで経済的損失を被るのみならず、社会的名声が地に堕ちてしまう可能性も十分に考えられる。対外活動を減らしても、早めに足元を固め直す時間をしっかり確保したほうが効果的だ。
エラい先生なら、そのようなマネジメントの基本も理解できているはずなのだが、なぜか自分の事業所のこととなると、なおざりにしてしまう人も少なくないようだ。
私は一人親方だとは言え、このBさんを自戒のための鏡としたい。
また、市民の立場で事業所を選ぶ場合も、経営者・運営者の名声だけで選ばないようにしたいものである。
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