介護離職についての考察(3)
先に(2)を書いてからだいぶ時間が経ってしまったが、育児離職の話から介護離職へ軌道を修正しようとしていた矢先に、また一つのスキャンダルが報道された。
大麻・覚醒剤の使用容疑で逮捕されたTN氏が、かつて「妻(著名な女優TR氏)の父の介護をする」と宣言してタレントを休業し、美談と称えられたにもかかわらず、この「介護」はほとんど実体のない虚構であり、K氏がそれを隠れ蓑にして保身・転身を図っていた(しかし実際にはヤクとの縁が切れておらず、逮捕に至ったのだが...)ことが明るみにされたのである。
「介護中」に取材された夫妻の言葉の端々を私たちが外から窺い知る限り、どう考えても氏が実際に義父の介護をしているとは考えられず、おもに担当しているとされた「書類仕事」さえ、転身(エステ開業)準備のための虚構に近い可能性が強くなった。TN氏は高収入の配偶者を持つ恵まれた立場にありながら、自分のカモフラージュやイメージアップのために介護離職を自称していたと推察される。
他方、現実には決して収入に恵まれていない一般人が、悩んで悩んだ末に、究極の選択を迫られ、万々やむを得ず離職して、生活を切り詰めながら介護に専念せざるを得なくなっている。
今回のTN氏の報道を受けて、当然であるが、今後「介護離職」に対する世間の目が厳しくなるであろう。「本当は結構な資産があって、楽な生活をしているのでは?」「別の目的があるのでは?」と疑われるかも知れない。きれいに仕事を引き継いで去っていきたい職場から、「本当に介護するのか?」などと言われ、嫌がらせを受ける人も出てくるであろう。
事実、離職者が介護に専念して外出もままならない状況になっても、配偶者や親に頼って働かずに家でブラブラしているかのように疑われるなど、これまでよりは風当たりが強くなるのではないか。「日本は『溶け込めない人間』に対して、非常に冷たい社会だ(音楽療法士・佐藤由美子氏)」と言われる通り、特に40代ぐらいまでの若い男性介護者がひとたび孤立してしまったとき、その人たちに対する偏見の増大が懸念される。
TN氏に問いたい。あなた(一人だけとは言わないが、あなたを含む何人か)の身勝手な振る舞いが、介護離職して苦闘する真摯な介護者たちを不当におとしめ、苦境に陥らせる原因を作っているのだ。ヤクの問題以前に、あなたの行動は人間としてどうなのか?
また、大物女優である妻のTR氏は、自身の実父を通して夫の虚構の「共犯」になったことを恥ずかしいと思わないのだろうか? 社会的な地位が高ければ、社会的な(道義上の)責任も大きいはずだ。自分たちの保身のためには、一般人の介護離職者の立場などどうでも良いのだろうか? TR氏のファンの中にも、介護離職者や将来そうなる可能性がある人がいるであろう。その人たちはTR氏にとってただの踏み台に過ぎないのだろうか? それはファンに対する侮辱ではないか。
TN氏やTR氏の虚構は、第三者に損害を与えていない限り、刑事的には何の問題もない行為であろう。しかし、芸能人や知名度の高い人たちには、彼らのマネを二度としてほしくないと、私は思う。
むろん、逆に「介護離職」後の生活態度が真摯に過ぎることは、必ずしも良いことではない。たとえば故・清水由貴子氏(1959-2009)は、芸能界を完全引退し、お母さんを介護してがんばり過ぎた結果、精神的に追い詰められて自殺するに至った。このような悲劇は、決して起こってほしくない。
とは言え、知名度の高い人が「介護離職」を公言する以上、スタイルはさまざまであっても、自分が主介護者となって専心してこそ、多くの人々の共感を得られるものであろう。清水氏の誠実な態度は(私も昔ファンだったので)静かな感動に値するものだった。介護うつが深刻になる前に、もう少し効果的な地域資源の活用ができなかったか、悔やまれる話である。
今後、真の介護離職者が漏れなく、地域社会から温かい励ましを受けて介護を続けられるように祈りたい。
次からは、そろそろ具体的な地域資源との関係性などの論点へ、話題を転じてみよう。
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