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2016年8月12日 (金)

自己責任論は国家の否定だ!

先日、炎天下に出先から事務所へ戻る途中、前方にある有料駐車場(屋根なし)のあたりを困り顔でウロウロしている、幼い子どもを連れた若い女性の姿があった。私が近づいて行くと、その女性から声を掛けられ、「すみません。両替していただけるお金をお持ちではないでしょうねぇ。実は車を出そうとして精算しようと思ったら、一万円しかないことに気が付きまして」と尋ねられた。幸い、五千円札一枚と千円札五枚があったので、両替してあげたところ、女性はホッとした顔で丁重なお礼の言葉を言ってから、精算機のほうへ向かった。

ときどきある話だ。その女性も子どもを遊ばせている間に不用意な買い物をして、千円札を使い切ってしまったのかも知れない。ともあれ、しばらく炎天下にいたらしい子どもが、早く車内に入れて良かったと思う。私自身も困ったときに見知らぬ人から助けてもらうことがある。同じ社会で共存する人間同士が助け合うのは自然の理だ。

ところで、私がこれと対照的な態度を取っていたら、どうだったであろうか?

たとえば、私が両替するお金を持っているにもかかわらず、「精算できないのは、貴女が千円札を準備していないのが原因でしょう? 自業自得じゃないですか。お子さんが熱中症にでもなったら、保護者の責任を問われますよ。ご自分の家族に連絡して千円札を持ってきてもらえば?」と叱責して立ち去ったとする。

もし、私がその顛末を誇らしげにエントリーして、「間抜けな母親にこう言ってやったよ!」なんて書いたら、非難ごうごう→炎上は間違いないであろう。

しかし、よく考えてほしい。

暴飲暴食で慢性疾患になったり、怠惰で貧困に陥ったりした人たちに対して、「本人の失敗や怠りが原因で社会保障(医療・保健・福祉・介護等)を必要とする事態に至った場合は、国や自治体がサービスを給付して助ける必要はない。自分自身や家族などの中で解決すべき」と主張する論者は、前述の若い女性を「間抜けな母親」だと非難する人と同じことを言っているのだ。

すなわち「自業自得論」である。これは、ソーシャルワークの原則とは全く背反する。当然であるが私自身は(すべてが基本通りに割り切れるとは限らないが、原則的には)採らない考え方である。もちろん、クライエントにその失敗や怠りを繰り返させないための側面的な支援をすることがソーシャルワークであるから、もし自分がそのような経過をたどったクライエントを担当すれば、まず社会保障サービスの給付を確保した上で、望ましい生活へ向けての相談援助を試みる。

他方、残念なことに「自業自得論」の考え方を採る人が減らないのも現実である。これを一歩進めれば、「自己責任論」となる。不可抗力により社会保障の給付を受ける人までバッシングの対象にしてしまう考え方だ。拙著『これでいいのか?日本の介護』の中でも少し触れておいたが、「二分割思考」で悪者探しをする思考形態とも密接に関連している。ターゲットにされるような記事が、ネット上で安易にシェアや拡散されていくことも、この潮流に拍車をかけている。

この「自己責任論」、いわゆる「保守派」「右派」と呼ばれる人たちに多い。皮肉な話だ。「保守派」「右派」の人たちは強い日本国の姿を理想としている。にもかかわらず、その強い国家が国民に対して果たさなければならない責任を否定してどうするのか? 筋が通らないと考えるのは私だけではあるまい。

もちろん、社会生活を送る以上、一人ひとりの国民には一定の自己責任が伴うのは当然である。しかし貧困の連鎖に象徴されるように、個人や家族だけではどうしようもない事態が生じるのも現実なのだ。

私は防衛力強化論者であるが、だからこそ社会保障の充実は国力の充実のために必須であると考えている。「自己責任論」を唱えて悪者叩きをしたい論者は、そんなヒマがあったら「国家責任」とは何なのか、頭を冷やして再考すべきであろう。その上で、真に国力、民力を強めるための提案を、しかるべき政党や政治勢力に働きかけていくことにエネルギーを費やすほうが、よっぽど建設的であると申し上げたい。

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