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2016年10月22日 (土)

介護離職についての考察(4)

以前、(3)を書いてからまたまた時間が経ってしまった。

この辺りで、「介護離職」についての根本的な課題に踏み込んでみたい。

政府なり自治体なりが、介護離職に歯止めをかけるための施策を実施しようとしている。ここで整理しなければならない重要な点は、施策によって「エンドユーザー」が異なることである。

たとえば、都道府県や政令市が地域内企業の「介護休業」「介護休暇」「時短」などの制度を拡充して、休める日数や時間を増やす、休んでいる間の代替社員の雇用にかかる費用を負担するなどの施策を採ったとする。この場合の「エンドユーザー」は、休暇を取る介護者である。

しかし、都道府県や政令市が地域に不足している介護サービスを拡充して、職員を育成し、仕事を持っている介護者が、介護を委ねられる事業所数を増やす施策を採ったとする。この場合の「エンドユーザー」は、介護を受ける利用者になるのだ。

したがって、「介護離職対策」と一括して良し悪しを論じるのではなく、この両者を分別して考察しなければならない。もちろん、それらを総括して政策論として取り上げること自体は問題ないのだが。

今回はまず、前者について述べてみたい。

「介護者」を「エンドユーザー」とする施策の最大のポイントは、その「受益者」である介護者にその施策を有効に使用してもらうことである。たとえば介護休業の三か月の間、介護者が介護に追われてしまい、期間が終わってから、さあどうしよう? もう少し時間が欲しい、しかたなく休職だ、いやそれにも限界がある、結局退職だ、・・・といった結末になれば、この施策はその介護者に取っても、勤務先にとっても、意味をなさないことになる(辞めさせられずに残った代替社員は正規雇用にしてもらえるかもしれないので、その人に取っては好結果になるかも知れないが...)。介護休暇にしても、時短にしても、大同小異である。

では、そうならないために何が必要なのか?

企業の経営をサポートしながら、休業した介護者「エンドユーザー」に地域資源を上手に使ってもらい、介護離職に至らないように支援する専門職の存在である。ソーシャルワークの一環としてそのような分野の支援がなされるのが望ましいわけだ。

ところが、このような「オキュペイショナル‐ソーシャルワーカー(OSW)=職業社会福祉士」とでも称するべき人材が、日本では育っていない(国際的にはすでに半世紀も前から、ソーシャルワークの一分野として開拓されてきたが、諸外国の例までは調べていないのでわからない)。

こう言ってしまうと、日本社会福祉士会ではいくつかの分野において認定社会福祉士、認定上級社会福祉士を養成しているではないか、と反論される方があるかも知れないが、これらの認定制度は、OSWの部門とはきわめて縁が薄いのだ。その方面に精通した一握りの稀少な社会福祉士を除けば、そもそもOSWとしては使いものにならない人が圧倒的に多いのが現実である。あえて乱暴な言い方をすれば、社会を知らない社会福祉士が多過ぎるのである。

たとえば食品衛生の企業で中間管理職を務める女性Aさんが、父親の介護のため90日の介護休業を取得するとしよう。Aさんが90日後に円滑に復帰できるために、地域資源を探し、介護サービスを探し、ケアマネジャーや施設相談員などと協働して、Aさんが仕事で家に居なくても父親が日中問題なく生活できるようにする。それだけならサルにも...いや失礼!m(_ _)m、私にも、つまり高齢者分野でそこそこに経験のある社会福祉士になら、だれにでもできる。認定資格など持っている必要はさらさらない(私も社会福祉士であるが、高齢分野の認定社会福祉士ではない)。

しかし、これらをするだけであれば、OSWとしては能力不十分なこと甚だしい。企業がお金を出してOSWを雇う意味はない。包括やケアマネジャーに相談すれば良いのだから。

OSWは企業の現実的な事業内容を踏まえ、その中でAさんがどのような役割を担っているのかをアセスメントしなければならない。Aさんが抜けたあと、その部門が大きな支障なく動いていくのか、企業の業績に影響がないか。Aさんの側は、三か月の空白で技術的な低下が生じないか、それを来たさないために、介護しながら何をすれば良いのか。Aさんは元の部署に復帰できるのか、もし他の部署に配転された場合、父親の介護を続けられる配慮をしてもらえるのか。

また、Aさんが介護を続けながら仕事をする影響は、会社の側に及ばないのか。業種によっても異なるが、たとえば食品衛生の会社ならば、「親の排せつ介助のため昼休みに帰宅しているAさんが午後から仕事で食品を扱っている」ことが取引先に知れて、先方の理解不足から会社のイメージダウンにつながる恐れはないのか。もしそのような恐れがあれば、それを解消する対策は立てているのか。

また、穴埋めのために異動してきた社員Bさんの福祉に、これまでになかった問題が生じていないか、たとえば、もしBさんに不登校気味の中学生の子がいたとすれば、Bさんの勤務場所や時間帯が変わったことにより、状況を暗転させることになっていないか。

さらに、このように企業が「エンドユーザー」である介護者の社員を大切にするのであれば問題はないが、そうとは言い難い業績本位の企業の場合はどうするのか。「エンドユーザー」である介護者を支援するのがソーシャルワークである以上、その最善の利益を図ってアドボカシーを実践するのがOSWの倫理であるはずだが、OSWの給料を出している企業側がそれを妨げる対応を示してきた場合、どのように調整するのか。

Aさんという一人の社員の介護休業に伴って生じる課題について、このような専門的な判断とそれに基づく職務を包括的にやりこなせるのがOSWであろう。会社の仕事内容や、Aさんの介護休業に影響される他の社員たちの実態などを、マクロな全体像からミクロな個別部門の状況まで把握しなければ、務まるものではない。務まらないOSWに用はない。

逆に言うと、Aさんの父親のサービス調整に限れば、包括やケアマネジャー、施設相談員等に任せてしまえば良いのだ。OSWが自ら調整に走り回る必要は全くない。節目の経過だけ把握していれば十分なのだ。

日本でこのようなOSWの仕事ができる人材が不足していることが、介護離職問題を巡る経済界、労働組合、介護業界の間に齟齬を来たしている一因になっているとしたら、遺憾千万である。

もっとも、私自身、いますぐにOSWが務まるかと問われても、正直、自信はないが...(^^;

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