踏みとどまる人たちにエールを!
静岡県は東海から関東にまたがる県域を持ち、風土も多種多様だ。私が住んでいる浜松市の中でさえ、南端から北端まで行くのには車で二時間以上を要し、地域差は大きい(「自治体附属機関等の委員会に出席して(2)」参照)。ましてや、県内でも西から東へ所用で出かけるとなると、現地での所要時間は2時間程度であっても、往復の時間を含めて丸一日を要することもある。
28日、県内で最も南東に位置する、賀茂地区介護支援専門員協会からの講演依頼をいただき、一日かけて下田市まで遠征してきた。
賀茂地区は東伊豆町、河津町、下田市、南伊豆町、松崎町、西伊豆町の6市町からなる地区で(画像は昭文社の地図)、浜松からの交通手段は沼津市、伊豆の国市、伊豆市を経由して車で行くか、熱海市、伊東市を経由して電車(JR、伊豆急行)で行くかのいずれかとなる。車の長距離運転が苦手な私は後者を選択したのだが、前夜からの大雨で伊豆急行が午前中運休となってしまったため、同団体のスタッフの方に車で(他用を兼ねてとのことだったが)伊東まで迎えに来ていただくことになり、お手数をおかけした。
演題は「ケアマネジャーの役割と使命」。大層な主題であるが、地理的な制約を抱えた現場のケアマネジャーたちにとっては、これからの時代、仕事にどう向き合っていくのかはたいへん重い課題なのだ。都市部で地域資源に恵まれている私たちからは想像もできない困難にぶつかることも、決して少なくはないであろう。
これまで静岡県の四隅にあるケアマネジャー連絡組織(南西隅-湖西市、北西隅-浜松市天竜区、北東隅-御殿場・小山、南東隅-賀茂地区)に講演でお邪魔しているが、都市部から離れている共通項があるとは言え、地域課題はそれぞれに異なる。
今回、講話の中で強調したのは、「プロとして対価を得られるような仕事をしてください」ということである。
地域包括ケアシステムは、一つ間違えれば「安上がり行政」を招来しかねないシステムとなる。地方自治体も経済的に余裕があるところは少ないし、ましてや過疎地域であればなおさら財政課題は重くのしかかってくるであろう。
そして、そのような地域だからこそ、ケアマネジャーの出番があるものと考えたい。住民にとって有益なアイディアを提案し、地域独自のシステムの創成に参画するのは、課題が大きい地域ほど大切なことなのだ。優れたアイディアが採用されて軌道に乗れば、費用対効果の面からも奏功して、自治体の財政を助けることにもつながるからだ。
参加者からの事前質問に「移動手段の確保」「認知症カフェの運営」等が挙げられたが、私たちが専門性を発揮できる場もそのような分野に存在すると思う。過疎地域におけるケアマネジャーの資質とは、やれ医療連携だ、ほれ給付適正化だといった代物ではなく、地元住民のニーズを的確に把握できる観察力、行政と連携しながら地域資源を整えていく実践力、人々が住み慣れた地域で長く生活できるように側面的支援を展開できる総合的専門性であると言えよう。
したがって、資質や専門性に裏打ちされた私たちの仕事は、当然のように評価を受けて、対価を得られるものでなければならない。裏を返せば、アマチュアにでもできるレベルの仕事しかできないのであれば、お金をもらう資格はないと言うことができる。
このような地域では「うち(自法人)さえ良ければ...」の思考はもはや論外だ。国が企図している業界再編成モデルに迎合せず、各種の事業者が共存できる体制を構築していくほうが、公益法人と営利法人、大規模法人と零細法人など、立場の違う組織がそれぞれの強みを生かして連携し合う、面白い業界共存モデルができるだろう。そのためには、私が日頃から福祉業界や医療業界の「ガラパゴス化」と揶揄している旧態依然たるパラダイムから、関係者たちが解放されることも大切だ。
このたびの出講では、賀茂地区でがんばって仕事を続けるケアマネジャーたちの、それぞれの地域における創意工夫を聴かせていただく機会にも恵まれ、私にとっても学びになる場であった。地域資源に乏しく課題の多い地域に踏みとどまって役割を果たしている人たちに、心からエールをお送りしたい。
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