ヴェルディ歌劇の面白さ(13)
まず、広島県・愛媛県・岡山県をはじめとする、このたびの豪雨災害で亡くなられた方々の安息をお祈りするとともに、被災された方々にお見舞いを申し上げ、一日も早い復興を願いたい。
そのような中ではあったが、7日(土)、かねてから生で見たいと思っていたヴェルディ初期の作品「ナブッコ」が上演されたので、東京まで鑑賞に出掛けてきた。
普段であれば、数日中にレヴューを書くのだが、そうもいかない事情が生じてしまった。先月から受託を再開した浜松市の要介護認定調査が、先週は7件も集中してしまい、結構時間と手間を取られた。そのさ中、自分の利用者さんの関連でアビューズ(≦虐待)が疑われる事案が2件発生し、対応に労力を消費して、猛暑も加わりいささか体調を崩してしまった。仕事をペースダウンした結果、何とか持ち直したので、ようやくエントリーする運びになった次第である。
さて、本題。
アーリドラーテ歌劇団。読者の中には、この名前を初めて見聞きする方が多いかも知れない。ヴェルディ歌劇の上演を目的とした団体であり、指揮者の山島達夫氏が提唱、プロだけでなくレベルの高いアマチュアの人たちを加えて、2010年に設立した。翌年の旗揚げ公演以来、1~2年に一回のペースでヴェルディ作品の上演を続けている。「アーリ‐ドラーテ」は「ナブッコ」第三幕に登場する合唱曲、「行け、わが想いよ、黄金の翼に乗って」中の「黄金の翼」のイタリア原語である。
指揮および総合プロデュースは山島(敬称略。以下同)、演出は木澤譲。キャストはナブッコが大川博、アビガイッレが鈴木麻里子、ザッカリーアが清水那由太、イズマエーレが青栁素晴、フェネーナは栗田真帆。合唱はヒルズ‐ロート‐コーラス、演奏はテアトロ‐ヴェルディ‐トウキョウ‐オーケストラ。
上演されたのは北千住の「THEATRE1010」。1010を「せんじゅ」と読ませ、しかもビルの商業施設は1010を逆さまにした「○|○|」=マルイなので、ダジャレみたいな名称の建物である。そこの11階が劇場になっている。
冒頭、山島が歌劇の主題について解説。ヴェルディについてあまり詳しくない一般の観客向きではあったが、あえて上演の趣旨に触れたのは興味深かった。
歌唱では、鈴木のアビガイッレと清水のザッカリーアとが圧巻の出来であり、第一幕から最終第四幕まで、この二人が終始劇場を支配して「聴かせる」名唱を披露した。大川のナブッコも安定した歌唱で、タイトルロールを堅実に演じていた。青栁のイズマエーレは一応及第点ながら、どちらかと言えばもう少し重いテノール向きかなと思わせたものだ。栗田のフェネーナは前半不安定感があったものの、後半で盛り返している。
合唱団はアマチュアを含めて総勢34名の乏しい陣容ながら、よく奮闘していた。人数の制約から、同じ人たちがイスラエルの住民になったりバビロニアの兵士になったり、変身するのに結構忙しかった様子だ。入れ替わりのとき、シャツ一枚ぐらい着替える時間はあったと思われるのだが、民の心が信仰に生きたり異教に走ったりする変転のさまを表現するため、どちらの側で歌唱するときにも、あえて同じ服装のままにしたのではないかと、演出の意図に気が付いた。「アーリ‐ドラーテ」の由来となった第三幕の合唱は、いわば上演の看板の箇所だけに、一糸乱れぬ名演であり、満場の拍手がしばらく鳴りやまなかった。
ハプニングは、第三幕終了直後に地震があったことだ(震度3。千葉県東部で震度5弱)。ビルの11階なのでかなりグラッときた。余震が来ない様子だったので、アナウンスを受けて観客も混乱せずにみな留まり、少し遅れたものの第四幕が粛々と再開された。再開直後の演奏に不安定さが感じられなかったのはさすがである。
プログラムを見ると、この歌劇団は財政基盤が弱いのにもかかわらず、ヴェルディ歌劇を普及させて文化的なコミュニティ再生に寄与するため、活動を続けているとのこと。上述の通り、海外有名オペラの引っ越し公演に比べても、決して見劣りがするレベルではないので、愛好家が増えることを心から願いたい。私自身もまた機会があれば、アーリドラーテが企画する何かの演目を鑑賞に行こうと思っている。
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