1分なら遅れても良い???
私が「プロフェッショナルの心構え」を本格的に学び始めたのは、開業する前年、39歳のときだ。
こう言うと、「なら、それまではアマチュアの感覚だったの?」と思われるかも知れないが、もちろん、それ以前も職業人としての自負はあった。しかし、勤務先では「プロの心構え」の類を体系的に教わる機会に乏しく、また残念なことに、上司や先輩の多くが、プロの資質に欠ける面を少なからず持っていたことも影響して、「こうでなければプロではない」条件をあまり意識することはなかった。
そのため、開業して何年かのうちに、利用者さんや介護者さんに叱られ、恥をかきながら、「プロの心構え」を曲がりなりにも身に着けることになった。私を叱責してくださった方々のおかげで、いまでは逆に、後進を指導する場で、私のほうが「プロの心構え」を説く機会をいただいている。
そして、大切な心構えの一つが、時間厳守の姿勢である。
ケアマネジャーの場合は、おもに月例の居宅訪問や、サービス担当者会議への出席(私は駐車場所も無い小さな事務所しか持っていないので、いつも利用者さんのお宅や他事業所に場所を借りている)の際に、定刻を守るように心掛けることである。
昨日訪問した利用者Aさんの介護者Bさんから、こんな話があった。
「Aも私も、自分で会社を経営してきました。〔二人の業種は異なるが、〕どちらも時間を守らないと信用を失う仕事だったため、いつも十分な余裕を持って行動していました。なので、あなたやあなたの紹介するサービス事業者さんには、決めた時間をしっかり守っていただきたい」
このAさん・Bさんとは二年近いお付き合いだが、利用当初のころからそう言われていた。約束しておきながら若干遅刻して、謝罪しなかった事業者に対しては、容赦なく苦情が浴びせられた。
私自身、過去、別の利用者さんの介護者さんから、苦情を言われたことがある。「自分は仕事を持っているから、定時で動いている。遅れる場合は必ず事前に連絡してほしい」。ちなみに、そのとき遅刻したのは、定刻からわずかに1分。
あとに仕事や所用を控えている人にとっては、1分でも遅れてこられると迷惑なのだ。私が来宅したときに要するおよその時間を測った上で、次の行動予定を入れる。当然ながら、後ろへずれてしまうと、あとの時間設定が厳しくなる。「1分ぐらいなら遅れても良い」などという論理は、相手次第では通用しないのである。
Aさん・Bさんのように、遅刻に対して不快感を示す利用者さん(または介護者さん)は、常に3~4名はおられるので、遅れる可能性がある場合には必ず事前にお断りして了解を得ることにしている。もちろん、それ以外の方も含めて、すべての利用者さんに対し、交通事情などのやむを得ない理由により1分でも遅刻した場合には、必ず「少々遅くなりまして申し訳ありませんでした」と陳謝している。例外として、定刻より早過ぎると困ると言われている場合に限っては、逆に意識して定刻ちょうど、または若干遅れて訪問することはあるが。
業種によっては、時間があまり厳密でなく、ゆるいところもあるだろう。しかし、それらの業種では、「○時□分ピッタリ」を守らなくても、お客≒受益者を待たせることがない業務内容である場合が多い。
裏を返せば、日時を定めて居宅訪問し、またはサービス担当者会議等に出席するケアマネジャーの多くが、「1分程度なら遅れても良い」と思っているのであれば、市民からも「利用者を待たせて負い目を感じない程度の職業」としか評価してもらえず、報酬や社会的地位が上がることは望めないであろう。
それは、『これでいいのか? 日本の介護』P.63~65に記述した、利用者さんにタメ口を利くケアマネジャーや、業務上の秘密を守らないケアマネジャーと同レベルだと言っても良い。
「お客さんを1分でも待たせるのは恥ずかしいことだ」と思うケアマネジャーが、増えてほしいものである。
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