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2020年5月17日 (日)

新型コロナ(8)-「想像力」をどう働かせるか?

前回より続く)

他人の行動に腹を立てても、建設的ではない(ただし、そのような行動を誘発する精神的風土については分析したほうが良い。これは後日、別稿で触れる)ので、まずは自分が望ましい行動をするためには、どうしたら良いかを先に考えよう。

前回述べた、的確な情報を取得することは大切だが、それだけでは十分ではない。

これから先へ向けて「想像力」を働かせることも、人間にとって大事なことだ。

将棋や囲碁でおなじみの「次の一手」である。棋士たちは「次の一手」を指す(打つ)前に考えることは、目先に映る魅力的な(=すぐ戦況を好転させそうな)一手を「とりあえずこう指す(打つ)」ではない。「最終的にこの一局で勝つ」ことである。「勝つ」ために必要な「次の一手」は、損な一手、我慢の一手、無策に映る(当面は)一手になるかも知れない。しかし、棋士にとってはそれでも構わない。勝つことが目的なのだから。

それでは、以下に掲げる三つの類型の人たちが打っている「次の一手」はどうだろうか?。

20200513shogi

△「買いだめ志向」の人。ワイドショーなどでトイレットペーパーが品薄だと聞き、自宅のストックが不安になる。そこで頭に浮かぶ「次の一手」は、なるべく多く買い置こうと考え、朝からドラッグストアに並び開店と同時に入って、トイレットペーパーを購入することだ。そうすることにより安心できる。

→ *しかし、そのために店に並べば、その行列の前後や近くに万一感染者がいた場合、自分が感染するかも知れない。個数制限の設定をめぐって、店員との間に気まずいやりとりを起こすかも知れない。その光景を知人が見ていて、知らないところで自分への陰口が広がるかも知れない。家族が買いだめに反対している場合、家庭内の空気が悪くなるかも知れない。もし品薄情報がデマだったら、笑われるかも知れない。トイレットペーパーを買いだめすると、家があまり広くなければ保管場所に苦慮するかも知れない。

△「自粛期間中に観光したい」人。非常事態宣言(国の緊急事態宣言や各都道府県独自の宣言を総称する)が出されていると、せっかくの連休中に「家に居ろ」と要請されてしまう。もともと電車や飛行機の予約を取っていたのだから、休みがあるのに行かないのはもったいないと思う。そこで頭に浮かぶ「次の一手」は、自粛疲れを回避するため、精神衛生を兼ねて予定通り観光することである。

→*しかし、そのために交通機関を利用すると、他の乗客から感染するかも知れない。目指す土地へ行っても、目ぼしい観光地はみな閉鎖されていて、楽しめないかも知れない。地元の人から白い目で見られるかもしれない。当地の美味しい料理店も大部分は休業中なので、つまらない旅行に終わるかも知れない。万一自分が感染していて潜伏期間だったら、地元の店で何か一品買っただけでも、その店を介して別の人の感染が判明したとき、ネットで個人を特定されて非難されるかも知れない。肩身の狭い思いをするかも知れない。

△「地域を守るために、感染を広げかねない人を排除したい(=いわゆる『自粛警察』などの)」人。自分や家族は感染したくない。また、地域に住む基礎疾患を抱えている人や高齢者にも(自分や家族に及ぶと困るから)感染させたくない。そこで頭に浮かぶ「次の一手」は、陽性者が出た医療機関の職員とか、物流で首都圏と行き来している運転手とかを、なるべく地域の他の人たちから隔離するように叫んだり、他県ナンバーの車を見つけたら出て行くよう要求したりして、地域全体を感染から守ることだ。

→*しかし、相手の生活もあるのだから、自分の勝手な思いで要請しても、意見が噛み合わないかも知れない。逆に本物の警察を呼ばれるかも知れない。相手の名前をネットに開示するなどしてしまうと、人権侵害だと受け取られ、法的手段に出られて自分が敗訴した場合、かえって大きな損害を被るかも知れない。また、ネット上で自分のほうが名前を開示され、非難されるかも知れない。結果的に双方が深い心の傷を負うかも知れない。

以上の三例。それぞれ「→*」のところに想像力が及べば、△の行為に踏み切らず、思いとどまることができる。おそらく、ほとんどの良識ある人はそうしているだろう。

SNSでも「落ち着いて行動しよう」と呼び掛ける人たちもいる。友人・知人からの声に耳を傾けることも大切だ。

いま安心したり、好い気分になったり、正義感に浸ったりすることができても、将来、自分が後悔する羽目になる。それほど逸脱した行動ではなくても、自分の次の一手は、結果的にリスクを高め、自分が損失を被る行為にならないだろうか? 一つ一つの行動において、常に「先を読む」力も必要だ。

そこまで思いを致して、よく考えてから、どう行動するかを決めたいものである。

(※画像の局面は将棋史に残る名場面の一つ。1979年の第37期名人戦第四局。一勝二敗と苦しい展開だった先手の中原誠第16世名人が、後手の故・米長邦雄永世棋聖に対し、ここで「5七銀」の一手を繰り出して破った場面。結果、このシリーズは中原氏の名人位防衛で終わる)

次回へ続く)

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