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2020年6月10日 (水)

新型コロナ(10)-マスクをめぐる騒動は何が問題だったのか?

前回より続く)

さて、消毒液の次は「マスク問題」である。

新型コロナウイルスの爆発的拡大に伴い、まず中国でマスクの需要が急増した。そのため日本からも一部の自治体などが中国へマスクを送り供給を支援した。ところが日本でも感染が拡大し、それに伴い多くの国民が予防の目的で不織布マスクを買い求め、全国的に品薄の状態が起こった。中国での生産に頼っていた製造業者も多かったので、容易に輸入できなくなってしまったのだ。さらに転売目的の人たちが買い占めたことにより、その状態に拍車を掛けた(本日現在、マスクの転売で利益を得ることは禁止されている)。

私自身もドラッグストアやコンビニで買い物をするたびにマスクの棚へ立ち寄ったが、3月には30回程度足を運んでようやく品物に当たる程度の確率だった。全国的に同様な状況であった。

そこで、政府では急遽、布マスクを買い上げて配付することを決定、業者に発注して調達できた分から配付を始めた。厚生労働省から、介護・福祉事業所や介護サービス利用者の分は4月上旬に配付され、妊産婦向けのマスクも配付されたが、一般家庭の分(世帯ごと2枚)はいまだに配付途中である。

なお、居宅介護サービスの利用者さんの分は、ケアマネジャーから配付するように丸投げされたため(重複を避ける意味では妥当かも知れないが、感染拡大防止のため利用者を居宅訪問しなくても差し支えないとの特例通知が出ている中で、布マスクは個別に配付しろというのもおかしな話だ。仮に郵送するとしても、もしケアマネジャーが感染していて潜伏期間だったら、利用者宅にマスクが届く時点ではまだ外装にウイルスが付着している可能性があるのだから)、私も4月中~下旬に居宅訪問しながら配って回った。

20200417masks

この布マスク配付策は多くの人から「愚策」と評されている。確かに3月下旬時点でのマスク不足を解消するために打ち出されたのにもかかわらず、6月になってもいまだ配付が完了していない。すでに不織布マスクが品薄状態を脱し(価格はかつての10倍近くまで上がってはいるが)、入手するのが難しくない状態だ。遅過ぎるのは間違いない。しかし、全体像を総合して、本当に愚策なのだろうか?

四つの点から分析してみたい。

(1)趣旨をしっかりPRしたのか?
この点では一言で言えば「失格」である。政府広報があまりにも拙劣であったため、布マスク配付のポイントが多くの国民に伝わらずに終わった。経済産業省筋から非公式に「こういう趣旨なんだ」との情報が流れ、また、自治体広報の専門家・佐久間智之氏などが、独自に作成した説明図を開示されている。私もこれらを参考にして、上の画像の左側にある文章を作成し、利用者さんに配付する際に添付した(郵送費用は当初の見込み金額の数字になっているが、圧縮後には配付時に修正説明した)。このように、広報面では失敗だったとしか表現しようがない。

(2)有効な材質だったのか?
このマスク配付策が打ち出された前後、WHOが1月29日に「布マスクはいかなる状況でも推奨されない」と発表したことを受けて、なぜ効果のないものを配付するのかと批判した人たちがいる。その
WHOのドキュメント(1/29)はこれだ。中の一文、"
Cloth masks are not recommended under any circumstance." を上記のように訳すること自体は正しいだろう。しかし、これはあくまでも「医療用マスク(medical masks, procedure masks, etc.)」について述べたドキュメントの末尾に書かれているものだ。この一文を引き合いに出して、「家庭用布マスク」の配付を批判するのはおかしい。
前者はおもに、医療・介護等の従事者が媒体になって、院内感染や在宅患者(利用者)間の感染を引き起こしてしまわないためのもので、後者はおもに、一般の人が、もし知らないうちに無症状の感染者になっていると、出先で他人に飛沫感染させてしまうことがあるため、それを防ぐためのものだ。用途や目的が異なれば、物品の精度も当然異なる。
布マスクは網目が粗いため、ウイルスが容易に通過してしまうと思われがちだが、ウイルスはまっすぐ飛ぶのではなく、不規則な「ブラウン運動」をしながら移動する。したがって、すでに感染している人がいわば「攻撃力を弱める」目的であれば、布マスクも役に立つのである(それが国民に伝わらなかったのは、上記(1)広報の問題なのだが...)。

(3)使える品質だったのか?
顔の大きさにもよるが、標準的な大人の顔ではやや小さめだ。洗うと縮む(→鼻にしっかり掛からないので、クシャミの飛沫を防ぐ効果が失われる)ことを計算に入れれば、何回も洗って使えるとは言い難い。上記の通り「自分が他人に感染させる力を弱める」のであれば、3回が限度か。
また、妊産婦向けに配付されたマスクの一部に、虫などの異物が混入されていたため、政府が回収して検品をしす一幕があった。いくつかの受託業者のうち、どこが粗雑な仕事をしたのかわからないが、受け取る側には視覚障害者などもいることを考えると、非常時だからこそ、品質を落とさないように丁寧な仕事をしてもらわないと困るのだ。
他方、政権反対派筋から一斉蜂起のように「うちにも」「こちらにも」と不良品が続々と報告されたのには、不自然な感を免れない。また、一部の「市民団体」などは厚労省の担当部局ではなく、製造業者に直接電話するなどして苦情を突き付け、中には会社まで押し掛けた団体まである。直接の責任は発注した側にあるのだから、この行為はあの「リアリティ番組制作側に対してではなく、出演者を直接非難攻撃する」人たちの行為と何ら変わりはない。それが業者を萎縮させてしまい、作業工程のさらなる遅延を招いたとしたら重大な問題だ。今後は良識ある振る舞いを求めたい。
とは言え、多くの市民に合った品質の布マスクが速やかに配付されたとは言い難いので、残念な顛末であったと表現すべきか。

(4)経済的な効果はあったのか?
政府による布マスクの発注自体が、国内の不織布マスク業者を医療用マスク増産へ方向転換させ、買い占めていた流通の中間事業者に販売を促し、それにより品薄状態の解消がもたらされたことは現実だ。国全体のレベルで考えれば、配付に要した税金に見合う経済効果はあったと見なすべきであろう。
また、4月~5月前半にかけては、中国が(火元であるのにもかかわらず)マスクをはじめとする感染予防用の医療用品を、世界各国へ売り付け、その見返りに政治的、経済的なアドバンテージを得る戦術を採っていた。他国はいざ知らず、日本に対してこの戦術が奏効しなかったのは、上記の政策により早期に不織布マスクや医療用マスクの流通が回復したことが大きい。
併せて、他の医療用品も含め、中国にある工場に頼っていた状況が改善され、国内工場での生産が多様な企業により試みられている。このあと大切なのは、せっかく手掛けた国内生産が不採算により消えてしまわないように、政府や国民がしっかり支えていくことであろう。

これらを総合的に評価して、政府のマスク関連施策は、厳しいようだが「35点」と採点しておこう。今後の改善への期待も込めて。

最近になって不織布マスクが値崩れしているとは言え、あまり廉価な輸入品(おもに中国製)には劣悪な品質のものが少なくないので、信頼できる取扱店を経由して入手することが大切である。日本衛生材料工業連合会の正式なマークが印字されている品物が推奨品だ(ニセモノのマークもあるようなので、ご用心を)。

私も今回、個人的に地元のドラッグストアで買うマスクは別として、仕事で使う不織布マスクの入手は、30年以上お付き合いしている三か所の医療関連事業者に限っている。マスクや消毒液が品薄で困っていた時期、私(≒当事業所)に対して「長年の顧客だから...」物品を融通してくれたのも、その三か所だ。ありがたい話である。(6/17追記。第二波が到来して利用者さん=顧客や、そのご家族に感染者が出ることも想定して、医療用マスクも別途購入した)

各自治体でも独自に不織布マスクを確保し、医療・介護等の事業所に配付している。当地でも浜松市(寄贈品から)や静岡県より、各事業所に対して不織布マスクの支給があった。

また、世帯ごとに配付された布マスクのほうだが、「無用の品」と思っている方も、不足して困っている人たち(基礎疾患を抱えた子どもたち、路上生活の人たちなど)に譲渡するとか、第二波や第三波に備えて保管しておくとか、それぞれの活用方法があるだろう。

なお、時間がある方は、現時点でのWHOのドキュメント(6/5)も参照されたい。報道ではWHOがマスクを広範に活用するように「指針を大幅修正した」とされているが、斜め読みする限り、従来の見解に「新たな知見を加えて再整理した」と理解するほうが良い。P.5には保健・介護従事者、P.7には一般公衆についての、「どんな状況ではどんなマスクが推奨されるか」をまとめた表が掲載されているので、便利である。

いまは熱中症予防のため、夏用マスクの入手が課題になっていることは、すでに皆さんがご存知の通りだ。身近なマスクをめぐる状況は、刻一刻と変化している。アンテナを高くして、感染予防に留意したいものだ。

そして、いつかはマスクの使用が必要最低限の場面で済むようになることを願いたい。

次回へ続く)

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