ヴェルディ歌劇の面白さ(17)
ここ数年、秋から冬にかけてヴェルディの歌劇(DVD・BD)を年代順に視聴するのが通例になっている。10月ころ、初期の作品から始めて、大みそかに「ファルスタッフ」で締める(当然のことながら紅白は視ない)。ただし、昨年の12月31日夜にはテレビが故障してしまったため、消化不良に終わった。
ヴェルディの作品は前期、中期、後期と、大きく三つの時期に分けられることが多い。異説もあるが、「オベルト」から「スティッフェリオ」までの15作が前期、「リゴレット」から「ドン‐カルロス」までの8作が中期、「アイーダ」から「ファルスタッフ」までの4作(「レクィエム」を含む)が後期。
グランド‐オペラの完成形とされる「アイーダ(上の画像)」はヴェルディの代表作に挙げられるが、実はドラマとしてはあまり深みがない。台本の出来も関係しているのだろうが、かなり一直線に進み、終わってみたらヒーローとヒロインとが一緒に死ぬことになった、との印象が強い。
それに比べ、楽曲ではいまだ熟成途上かも知れないが、一つ前の「ドン‐カルロス(下の画像)」は大きな背景に覆われる人生の悲哀を活写した、たいへん深みのある作品である。
実は、ヴェルディは「社会派」の作曲家であり、中期の諸作品は一つ一つが重い主題を含有しているので、たいへん味わい深い。
・「リゴレット」→ 身体障害者差別
・「トロヴァトーレ」→ 非定住民差別
・「椿姫」→ 娼婦(日陰に生きる人たち)差別
・「シチリアの晩鐘」→ 征服者と被支配者との憎悪
・「シモン‐ボッカネグラ」→ 党派対立と融和
・「仮面舞踏会」→ 友情とその破綻
・「運命の力」→ 先住民(中南米の人たち)差別/信仰
・「ドン‐カルロス」→ 圧政と自由/信仰
一言で表現すればこんな感じだ。「リゴレット」から年代順に鑑賞すると、音楽の完成度が増していくに連れ、どんどん盛り上がっていく。あえて言えば「シチリアの晩鐘」はパリ進出のためヴェルディが不承不承作曲しており、本人はこのあまり気に入っていなかったので、ここで「少し脱線」。また「仮面舞踏会」は国の指導者をめぐる物語とは言え、個人的悲劇の色彩が強いので、ここが「ちょっと休憩」になるのかも知れない。そのあと「運命の力」は曲の重厚さをいよいよ増し、宗教(信仰)はどこまで力を持ち得るのか?の副題まで加わる。そして「ドン‐カルロス」で最高潮に達するのだ。
その次に祝典用の悲劇「アイーダ」が来るわけだから、ここで盛り上がりが一段落して「社会派」から離れ、後期の諸作品はヴェルディの華麗な展覧会となる。歌劇的な宗教曲「レクィエム」、個人・家庭の悲劇を追究した「オテロ」と続き、最後は「世界中がダジャレだ!」の喜劇「ファルスタッフ」で大団円となる。
作品同士の関連性があまりないと思われているヴェルディ作品。こんな視点から年代を追いながら眺めてみるのも一つの楽しみ方であろう。
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