報酬引き上げを求める資格があるのか?
1月15日は亡き父の「生誕記念99周年(^^#」。現実の父は80歳で世を去ったので、そのあとは単に私にとってのアニバーサリーである。クリスマスから遠くないこともあり、改めて特別な料理などを用意して祝うことはないが、かつて1月15日が固定された「成人の日」だった(いまは移動祝日)こともあり、忘れずに思い出すよう努めている。
その父は、晩年に認知症を患いつつ、介護サービスには拒否的であった。母の介護疲れを見かねた私が頼み込んで、ようやく通所介護を利用するようになり、短期入所生活介護も何とか開始できる段取りを取った直後に他界した。自分からサービスの利用控えをしてしまい、必要最低限の利用にとどまった形だが、介護保険料で積んでいた分を、サービスがより必要な市内の他の利用者に回すことができたとも言える。いつも来客に気前よく飲食物などを分けてあげることだけが美点だった(笑)父には、ふさわしい終末だったかも知れない。
さて、介護給付費分科会では2021年3月の介護報酬改定の大枠が固まった。厚生労働省と財務省とが折衝した結果、個別のサービスはともかく、全体として0.7%の引き上げが見込まれている。1万円だったものが1万70円になるわけだから、「微増」と言うべきか。
これに対して、学識経験者からも介護現場からも、さまざまな論評が発せられている。国の財政基盤を考慮すれば、コロナ禍の中で引き下げられなかっただけでも十分な成果であるとする意見。逆にコロナ禍のため各事業者が大きな負担増を強いられており、この程度の微増では現場を去る人が増え、人手不足に拍車がかかるとする意見。いずれの論者も根拠に基づいて述べておられるので、その得失について私はあえて評定しない。
ただし、居宅介護支援は延々と収支差率が赤字であるため、「介護報酬をもっと引き上げろ」との議論が絶えない。特に介護支援専門員(=ケアマネジャー。このエントリーでは制度上の介護支援専門員を意味しているので、その呼称を使う)が1~2人であり、利用者数も少ない(たとえば私の事業所のような)ところは、満足な給与を出せば利益が出ないのが現実である。これに対して、現場の介護支援専門員からは、さらなる報酬引き上げを求める声も多く、他方で学識経験者や経営コンサルからは「(特定事業所加算を取るなど)大規模化せよ」との論が優勢になっているが、これについては後日、別稿で論じることにする。
今回は、「もっと引き上げろ!」と言う介護支援専門員たちについて、...
「あなたたち全員に、その資格があるのか?」
...これが本題だ。
・利用者を強く説得して(併設の)自社サービスを(必要最低限でなく)多めに利用してもらうように誘導した。
・給付管理を発生されるために利用者に頼んで、必要性がほとんど無い福祉用具を一品だけレンタルしてもらったり、通所へ月一回だけ行ってもらったりした。
・交通事故などの第三者行為で要介護状態になった(他の疾患等との合わせ技でなった場合を除く)利用者のために、通常通りに要介護認定を申請して、サービスの利用開始の運びにした。
たとえ善意から出た行動であっても、こんな経験のある介護支援専門員がいたら、はっきり申し上げたい。
「それ、モラルハザードだよね?」
保険の不適正給付に加担した人には、保険の公定価格である介護報酬を引き上げろと主張する資格はない。
さらに...
...「モラルハザード」は「保険詐欺」の意味で使われることが多いが、本来は社会保険に限定されない広い意味を持つ。「当事者の一方が自分の側だけから把握できる情報を意図的に歪曲したり、加入者が給付母体の存在を頼みにして意図的な権利の濫用をしたりする行動によって、適正な経済的関係が崩れること」の総称がモラルハザードなのである。
したがって、生保の不適正受給に加担したり(必要な利用者にはもちろん受給を支援するのが当然。ここでは客観的に、隠し資産があったり、経済的に余裕がある親族が扶助不能を偽装したりする場合を指す)、市区町村の独自サービスを受給するために事実と乖離する報告をしたり(基礎自治体側が許容範囲を甘くしているのなら話は別だが)することも、モラルハザードに含まれる。
あくまでも合法的に、公共財のサービスを我田引水の形で利用する、いわばフリーライダー(ただ乗り)の行為(例:タクシー代わりに救急車を呼んだなど)であれば、私も利用者側の選択を容認したことはある。もちろん道義的にお勧めできない旨を説いた上で、それでも利用者や主介護者から申請する、活用すると言われたら、私が勝手に代位して押しとどめる権利はないのだから。
しかし、モラルハザードは明らかにフリーライダーの行為とは一線を画している。「本来受けられない給付を、故意に事実を歪曲するなどして受給する」行為だ。反社会的行為と何ら変わるものではない。
それに参画した介護支援専門員が、なぜ介護保険の公定価格である報酬引き上げを求めるのか? 泥棒が警察に盗むためのお金をくださいと言っているのと同じであることを、わかっていないのか? 「いや、普段はまっとうな市民で、ときどき出来心で泥棒をするだけなので...」と言い訳するならば、ふざけるな!と言い返したい。
介護保険財政を食いつぶしているのは、あなたやあなたの利用者たちだ。
こんな話をすると、「馬鹿正直だねぇ」と言われるかも知れないが、みんなが正直に仕事をしていないから、各地で不正請求が摘発されるのではないのか? 介護支援専門員の風上にも置けない奴が偉そうに専門職を名乗り、その一部は人前で滔々と講義まで垂れている。馬鹿正直に仕事しているわれわれの足を引っ張るんじゃないよ!
私は過去19年の間、多くの利用者さんたちから(死去、転地、施設入所等以外の事情で)解約されている。その解約理由の大半は、私が利用者さんやキーパーソン(≒主介護者)さんのモラルハザード、またはそれに近付く行為を制止しようとしたので、煙たがられてしまったためだ。これは私の経歴の中で、最も誇るべきことの一つだと思っている。
発足当初は「介護保険の弁護士」とまで称され、期待された介護支援専門員。プロフェッショナルの矜持を忘れないでほしいものである。
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