国際的な声価を得ること
大坂なおみ選手(23/女子テニス)が昇竜の勢いだ。
全米、ついで全豪も二度目の優勝を果たした。途中で苦戦しながらも連勝街道を驀進中(本日現在22連勝)であり、少なくともハードコートでは向かうところ敵なしの強者である。
しかし、同選手が評価を確立しつつあるのは、単に試合で勝ち続けているからだけではない。他の選手が簡単に真似できない資質と力量とを持っているからだ。
具体的には、
・若くして王者の風格を備えている。無闇に奇策を弄せず、相手選手を正面から堂々と受けて立つ。
・自分を客体視して修正する能力がある。2019年に世界ランキング1位になったあと、メンタルの弱さもありスランプに陥ったが、それを直視して徐々に克服していった。
・勝ちを簡単に譲らない二枚腰である。有力な相手選手が大坂選手に「善戦しても最終的には敗れる」ことが続くと、対戦する前から「難攻不落の堅城」と映ってしまう。
・競技界を変容させるほどのインパクトを与える力がある。米国で白人の警察官に黒人の被疑者が殺害される事件があり、それを契機に全米で差別に抗議する運動が高まったが、大坂選手は全米オープンの7試合すべてにおいて、過去同様に犠牲となった黒人たち一人ひとりの名前を記したマスクを着用した。「スポーツに政治を持ち込むな!」との批判に動じず、「これは人権問題」との主張を貫き、観戦した多くの人々に感銘を与えた。真に一流であるプレイヤーは、他方で優れたパフォーマーとして振る舞うことができる。
・未達成のタイトル獲得や記録樹立への期待感がある。何と言っても23歳。まだまだ伸びしろをいっぱい持っている。全英や全仏などコートの質が異なる舞台でのプレーは、今後の課題でもあるが、大坂選手ならば遠からず制覇できるのでは、と希望的に予測するファンは多いであろう。「これからどこまで強くなるのか...」
これらの要素が重なり合って、魅力満点のスーパーヒロインを作り上げているのだ。大坂選手はいまや、米国在住のアスリートの中でも最高水準の一人として、人々から高く評価されており、国際的にも声価が高い。
さて、野球界にもスーパースターが存在し、日本や米国で広く知られているのはご存知の通りだ。
大谷翔平選手(26/MLB)。言わずと知れたロサンゼルス‐エンジェルス所属の投手兼打者である。
ただ、大坂選手と比較した場合、大谷選手はいまだその地位を十分に確立したとは言い難い。度重なる右肘の故障のため、投手としては十分に成功を収めておらず、一流の打者としての活躍にとどまっていることがブレーキとなっている。
しかし、それがすべてではない。大谷選手には全米を巻き込むほどのインパクトがいま一つであることも確かだ。欲を言えば、野球界全体を変容させるパワーがほしい。大坂選手のように社会問題を前面に押し出すことだけが方法ではない。競技の枠内で圧倒的なパフォーマンスを成し遂げる形もある。「二刀流(two-way player)」だけでもMLBで前例のない登録選手であり、それを試合で発揮できるだけで日米野球界の至宝だと言って良い。今期のオープン戦で肩を慣らし、飛躍のシーズンにしてほしいものだ。
テニスと野球とを比較した場合、個人競技とチーム競技、世界的競技と特定の国々で盛んな競技との違いは確かにあるだろうが、大谷選手は日本や米国のみならず、さらに多くの野球を愛する人たちや、その枠を超えた社会の各方面から、称賛を浴びられるポテンシャルを持っていると、個人的には思っている。
また、大谷選手がデサントやアシックスの製品を身に着けてメディアに露出する行動は、スポンサーへの配慮が窺える。大坂選手も先日の全豪優勝インタヴューでは、右肩からジャージを外し、日清食品・ナイキ・ワークデイなどのロゴをカメラの前にさらしていた。自分にお金を払ってくれる企業に対してしっかりと敬意を払っているのだ。これもまた超一流アスリートの品格であろう。
両選手に限らず、真に実力のあるアスリートやプレーヤーは、惜しみなくその力を発揮して国際的な声価を得てほしいと、心から願っている。
(※イラストはグラパックジャパンの使用権フリーのものを拝借しました)
最近のコメント