ワーグナー楽劇の面白さ(12)
最近、歌劇や楽劇を劇場まで鑑賞に行くことがほぼなくなった。長時間の座位が厳しくなったことや、予算の不足がおもな原因である。
そのため、ワーグナーの楽劇もヴェルディの歌劇も、もっぱら自宅でDVDやBDを視聴している。
さて、ワーグナーは1843年の「さまよえるオランダ人」以降が一般的に上演されるが、それより前の歌劇がいわば「助走時代」の作品として注目されることが少なくない。
1836年初演の「恋はご法度(かつては「恋愛禁制」と訳されていた)」。16世紀のシチリアを舞台に、「男女の恋愛を禁じる」というトンデモ法令を発布したドイツ人の総督を、市民たちがカーニバルでコテンパンにやっつけるドタバタ喜劇。このあとワーグナーが「喜劇」を作ったのは「ニュルンベルクノマイスタージンガー」だけであるから、貴重な作品なのだ。画像のBDは2016年マドリード版で、舞台はすっかり現代のシチリアに移され、登場人物はみなスマホを駆使している。
また、1842年初演の「リエンツィ」は初期の大作だ。14世紀のローマに実在した執政官コーラ‐ディ‐リエンツォをモデルにした作品で、省略しなければ5時間に及ぶ長編歌劇。これまで失意の無名作曲家だったワーグナーが一世を風靡する契機になった出世作だが、人物の内面にあまり立ち入らない内容だったため、ワーグナー自身が後にこの作品を気に入らなくなってしまった。画像のDVDは2012年トゥールーズ版。登場人物がみな顔を白塗りにしている演出が面白い。
私はかつて、「恋はご法度」を東京グローブ座で、「リエンツィ」を藤沢市民オペラで鑑賞した。いずれも「本邦舞台初演」の価値ある上演である。前者はオーソドックスな演出だったが、コミカルな要素をふんだんに詰め込んだ名演。後者は市民オペラで歌唱も日本語だったが、ソリストはみなプロの声楽家であり、全体として精度の高い舞台であったと記憶している。
この二作品をじっくり味わってから、「オランダ人」以降の作品を順番に鑑賞し、ワーグナーの歩みを追ってみたい。
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